「火炎霊峰富士」の撮影ノート
 
 この時は前後で合計5カットくらい撮り、ザラ星の写っていないものから選びました。レンズは35ミリとは比率が違いますが換算で28ミリとなります。全体として縦位置の構図となっていますが、銀冠ワイド点火以前で、既に先読みして縦で構えて待っています。もちろん後に続く銀冠ワイドの高さや打ち上げ位置などはある程度正確に予想しているわけです。もちろん横位置で富士山を撮り、縦に切り替えても良いわけですが、ここで撮るのが初めてであったので確実に撮れる方法を選んだわけです。銀冠ワイド自体は全部を打ち終わるのにさほど時間がかかりません。あっという間に終わってしまうので撮るタイミングも重要です。
 最初のカットでは画面下部に富士山を前露光しておき、上部の銀冠待ち、という流れです。もちろん富士は銀冠と同時に露光できますが、銀冠開始になったときに富士山が歯抜けになってしまう場合(張物が先に終わってしまう)もあるので、完全な形の富士山を露光しておく、といういわばこれは保険のカットです。銀冠を打ち始めた時点で歯抜けがなければ構図を微調整しながらそのまま連続して撮影しますが、歯抜けが生じたときは保険のカットに銀冠の最高の瞬間を一枚だけ合わせるのです。
 この撮影ポイントでは全体を斜めに見ています。広角系の場合の遠近感を考慮して富士山を画面右下に置き、上部の銀冠との構図のバランスをとっています。この写真はほとんどトリミングしていません。またこの日は風が強く、画面左方へかなりの風が吹いてしました。そのあたりの玉の流れる方向も考慮しています。
 花火写真の場合は打ち上がり始めた花火をじっくりフレーミングしている時間はありません。ですから事前の予測が肝心で、本番ではほんの少しフレーミングの微調整だけを行います。
 この花火大会での写真コンテストの審査を担当しました。富士山だけの写真は多かったのですが、この空中ナイアガラを含めた作品の応募はありませんでした。先行した富士山を横位置で撮っていた多くのカメラマンがこの横から縦への切り替えに対応できず、空中ナイアガラの本体を撮りのがしてしまったようです。
   
by 小野里公成
●常設展示室3に戻る
●INDEX