花火野郎の観覧日記2009

番外特別編1 10/11
椋神社例大祭 奉納大龍勢
  
埼玉県・秩父市下吉田 

 この地の龍勢は1998年以来11年ぶりに観る。しかも本来の秋の椋神社例大祭に見に来るのは、同県内に住んでいながら初めてだ。永らく「吉田町龍勢」と開催地名で呼んでいたが、市町村合併で現在は秩父市となっている。秋の例大祭は本来10月5日に行われていたが、一時期10月10日固定に変わり、平成12年から10月第2日曜日を開催日としている。これまで何度も見に来ようと思いながらもなぜか実現せず、今回は念願の観覧といえる。
 前回観覧の1998年は、「国際龍勢ロケットシンポジウム」という催しがこの場所で開催され、朝比奈大龍勢、草薙大龍勢など全国各地の龍勢関係者を集めての龍勢サミット的な内容だった。当時埼玉県大宮市で開かれた、ロケット技術の開発を進める世界10ヶ国の研究者のための「第21回宇宙技術および科学の国際シンポジウム(第21回ISTS)」の一環として、各国研究者の見学のために5月に特別開催されたのである。私はこの時初めて龍勢を見物した。地元の住民にとっては初めて観る「よその」龍勢にしきりに感心し、歓声をあげていた。 
 龍勢はやはり絶対の秋晴れの中で観たい。それというのも龍勢本体に仕込まれた「背負い物(ショイモノ)」と呼ばれる花火を含む様々な仕掛けを鑑賞するには、やはり快晴の秋空を背景にするのがベストだからだ。天気予報で絶対の晴れ予報を確認して観覧を決心する。奉納開始は午前9時からだが早目に到着してロケハン。早く来られるのは県内の強みではあるけれど、既に境内内外ではまだ肌寒い早朝から多くの関係者が準備にあたっていた。
 一度観て撮っているので、また同じ場所でと気楽に考えていたがそうはいかなかった。10年以上もご無沙汰だと大きな変化はあるもので、一番の変化は観客席と発射台エリアとの間に背の高い防護柵が設けられていたこと。これは2年前、2007年の例大祭で、龍勢の一部が客席に飛び込みけが人を出してしまった事故に因る。発射台から出た龍勢は10メートルも上がらないところで爆発、先端部が相当なスピードで客席の一部に飛び込んだのだ。この事故ののち翌2008年度から到達高度が下がることになるが推進用火薬量を平均1キログラム減らした。そしてもともと発射台から最長半径で300メートルは危険区域として立入禁止としていたが、さらに道路沿いに高さ5メートル、長さにして300メートルの防護ネットを設置。また立ち入り禁止の危険区域拡大や、監視員の増員などの対策が施された。
 防護柵とはいっても上から飛び込んでくる物を避けられるわけではなく、一見して役に立つのかコレ?と感じる。鉄パイプとネットによる防護柵のおかげで、一番の特等席の有料観覧席最前列からでも肝心の発射台がすっぽりネットの向こう側になってしまい台無しである。
 過去にはまさにこの柵が建っている場所、国道37号沿いの危険区域との境で見物・撮影できた。歩道上にはズラリと三脚が並んでいたものだ。しかし防護柵を設けてからはそこで観覧することは一切出来なくなった。一目でダメだと思ったのは防護柵の高さと電線。防護柵に発射台が隠れないように後退すると今度は発射台の肝心なところに電線がひっかかる。撮影目的で早くから来ている同好の趣味人は多いわけだが、前日から来ているという方も居る写真愛好家諸氏や地元の見物客と歓談しながら対応策を考える。知り合いというわけではないが、カメラを手にしていれば懸念材料は共通の話題。これで前に出たり下がったりと小一時間も立ち位置を探ってロケハンしたけれど、ここぞ、という場所は見つからずとりあえずの妥協点に三脚を置く。
     

龍勢保管所から発射台へ運ぶ

道路脇には防護ネット

発射成功
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観客席から発射台を望む

口上を述べるお立ち台

客席の前を通って発射台へ

飛ばずにその場で爆発(筒っぱね)

背負い物の展開成功例

矢柄止めパラシュートで
吊った本体がゆっくりと
落下。矢柄にも仕掛けスモーク。

珍しい唐傘と煙幕
1
矢柄本体と三連旗

小学校寄書の長旗付き

背負い物の展開成功例

発射成功(別観覧場所)

午前中に撮った月。ちやんと
クレーターまで写るんですね
   
 指定駐車場と椋神社境内ならびに観覧場所とは距離はないけれど高低差が凄くあり、機材を運ぶ往復はきつかった。たまたま車から戻る際に良さそうな場所を発見し三脚を移してそこを候補地とした。発射台からはかなり距離を置くが電線と防護柵を避けるにはそれしかない。今日はデジタル一眼一発だが、利点は望遠に強いということ。素子が小さいのでズーム端300ミリの安いズームも400ミリ以上。距離を置いてもドアップは無理にしてもそこそこ撮れる。前回は135ミリ一眼で望遠を何本も持ってきて撮った。
 撮りとしては発射そのものと上空に上がってからの背負い物の展開を撮る。つまり望遠を使いながらも三脚に固定してしまっては背負い物の方が追いづらいのだ。だから三脚は持ち手を固定する台として使い。カメラは手持ち。発射を撮る、すぐ上に振って上空を狙う。という段取り。龍勢がどう飛ぶかわからないから三脚に固定してしまうと動きが制限されて追えない。動きの速いものなので、晴天で十分絞りが深くなるけれど、さらにISO感度を若干上げて望遠でもブレないシャッター速度と絞り深度を稼いで望む。手ブレ補正レンズと相まって手持ちも楽勝。こういう点がデシタル一眼の柔軟なところだ。
 三脚を仮置きしてから境内の有料席あたりをブラブラ。ちょうど保管所から発射台に運ぶ龍勢が客席の前を通って見物することが出来た。手間暇かけて製作された龍勢を担いで運ぶその流派の面々はどの顔も誇らしげで嬉しそうだ。1年かけて製作される龍勢のまさしく晴れ舞台。龍勢の頭部が色とりどりの布や飾りで覆われているのは化粧と言うよりも、他流派にオリジナルの仕掛け搭載の様子を見せないため?仕掛けの装着方法や格納方法は各流派秘中の秘だからだ。
 神社近辺は当日売りもある純然たる有料席と、花火大会でもあるように龍勢製作各流派がスポンサー様を迎えるために設けた席。そして一般無料席と分かれている。境内を歩く内に、結局これら有料席ではないたとえば露天商が出ている通路付近とかで立ち見すれば見物できることに気が付き、事実あちこちに座り込んでいる客も居る。で、発射台方向を見ると下の方に柵がかかるものの、上空は開けているので別の三脚を運んで適当にそこらへんで見物することにした。
 見物席には流派のとりどりの幟旗がはためき、祭り気分を盛り上げる。午前9時から16時45分まで15分に一本、27流派製作による計30本の龍勢が放たれる。1本発射すると次を発射台に据えるまでの時間が必要。発射前には各流派代表により独特の調子でその龍勢の内容とか奉納者紹介の口上が述べられる。口上を述べるのは客席ほぼ中央に設けられた一際高いお立ち台の上。
 龍勢は、長さ約15メートルの竹製の「矢柄」の先端に、火薬の入ったロケット本体の「筒」(口径約10センチ、長さ約50センチ)を縛り付けてある。これが点火と共に上昇、約300メートル上空まで舞い上がる。そして飛ぶだけでなくロケット本体に花火など数々の仕掛けモノを積んでいる。こうした付加物を「背負い物(ショイモノ)」と呼ぶが、内容は製作にあたる龍勢の各流派やスポンサーの意向で様々な物が仕込まれる。代表的なのはカラースモークの昼花火、龍勢の矢柄を吊るための大小のパラシュート、長旗、紙テープや短冊、唐傘などで、龍勢が最高到達地点に達すると共に、火薬によって一気に放出・展開するようになっている。
 龍勢が、無事に発射され、高度を稼ぎ、設計通りに仕掛け物が展開、矢柄(胴体の竹の部分)や大きな部品(先端のロケット本体など)はパラシュートで軟着陸させる、というのが打上成功のパターン。しかし全ての龍勢がそう思い通りに成功するわけではなく、それがまた見どころだ。ちょうど近くにある流派のお席があり、そのうちひとりがお客さんに説明していた。「今日のこの日が終わったらまたすぐ翌日から来年の龍勢のプランを考えるんです」。構想から完成、打上まで1年をかけた大仕事だ。
 それでうまくいけば拍手喝采だがそうはいかない。発射台でそのまま爆発、木っ端みじんというのも何本もあった。それらは全てロケット本体の造りに因るからなかなか難しいのだろう。龍勢本体はいわば固体燃料ロケット。燃料としの火薬が燃えてそのガスを噴出して飛ぶのだが、ガスの噴出量を稼ぐつまり推進力を上げるには単位時間あたりの燃料が燃える面積を多くしなければならない。端から順に煙草の火が燃えるように進むのを端面燃焼というが、龍勢では燃焼時間を稼ぐ端面燃焼より推力を優先する内面燃焼という技術が使われている。
 燃料の内側をくり抜いてそこから外側に向かって円錐形に燃焼する。つまり燃える面積が燃料の直径が最大である端面燃焼より遙かに多く、エンジンとしてのパワーがあるのだ。反面内側の空洞の形状や大きさ、同時に噴射口の大きさなどのバランスが難しく、燃料自体の湿度も気象条件などで変わり、各流派とも苦心のしどころと思う。無事に端から順に燃えてくれればロケットとして機能するが、乾燥などにより燃料にひびが入ったりして一気に火薬全体に火が入れば爆発(筒っぱね)してしまう。自重に対して噴射力、推力が足りなければ発射台で推進薬だけが燃えて上昇しない「居ずくまり」という失敗になる。
 結局午前の部が終わる11時45分までその場に立ちつくして見物、撮影していた。背中からの強烈な陽射しで焦がされたが望み通りの快晴の空で満足した。
 昼の休憩時間を挟んで、最初に三脚を建てていた場所に変えて別の角度と間合いから少しだけ撮る。そちらの方が車に近いので撤収も楽だしと。しかしその頃には境内の通路は押し寄せた観客で押し合いへし合いの大混雑になっていて、移動も直ぐにはできないくらいだった。
 打上は17時近くまであるが、次第に快晴でなく雲がかなり沸き始めていたから13時過ぎの発射まで約半分を見たところで撤収する。すでに帰り道も渋滞気味になっていたし、午後になってから見物に来る車が大渋滞になっていた。所定駐車場は満車なので神社に続くあちこちに路上駐車されていた。発射台は町全体からみると高台の山の麓にあるので、打ち出されればどこからでも見える。しかしやはり神社近くで口上を聞きながら観るのが王道だろう。
 行楽日和に恵まれたということもあるし、翌日の新聞発表によれば観客は約10万7000人と過去最高の人出だったようだ。前日の10日土曜日に在京のテレビ局の番組で、吉田と小鹿野の西秩父地区が取り上げられ、この龍勢祭りが大きく紹介されたことも要因かも知れない。
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