花火野郎の観覧日記2011

観覧日記その10 9/10
常総きぬ川花火大会 2011
  
茨城県・常総市

 近畿四国地方に災害をもたらせた台風12号の接近で、早々に3日開催から10日に順延し一週間遅れの開催。本来は関東直撃コースだったから予報通りに進んでいたら、未曾有の惨事になっていたのは関東地方だったかも知れない。それでも一部で相当の大雨となった。常総市でも会場脇を流れる鬼怒川の増水は免れず、打ち上げ会場の一部では翌日に順延したくらいでは水が引かずに開催は不可能だったと考える。結果として片貝まつりの開催日とバッティングしてしまうので頭を抱える愛好家諸氏も多かったに違いない。両方を無事観覧された方々は良い週末とうらやましく思う。
 常総市(旧水海道市)に訪れたのは1999年に花火大会に先駆けた花火写真教室の講師として招かれたのが最初になる。講釈をぶつだけでは申し訳ないので同月に開催された水海道市花火大会も初めて観覧したわけだが、この講師の時からマイカー利用で、以来ただの一度も電車で出かけたことがなかった。
 今期はオール電車利用なので、鉄分の濃い仲間にどういうルートで行くのが良いか尋ねておいた。二つ返事で「つくばエキスプレスが速い」と聞き秋葉原経由で出かける。なるほど快適な速さは快感に近い。守谷駅で関東鉄道に乗り換えて秋葉原から正味45分ほどで水海道駅到着だ。途中の守谷駅で同道した愛好家と共にひとつ先の北水海道下車。観覧場所の堤防道路にはこちらの方が近い。11時前か……。使ったことのない電車ルートで余裕をみたわけだが予想外に早く着き過ぎてしまった。
 この大会では数年前から、堤防道路の一部を写真/ビデオ愛好家向けの撮影場所に有料の区割りにして事前販売するようになった。場所代が同時に入るという一石二鳥の機転のおかげで一時期加熱しすぎた場所取り狂想曲となっていたこの大会もすっかり平穏になった。ゆえにここでは三脚を立てるに必死にならなくても予めその場所がリザーブ済みという安心感は、打ち上げが始まるまでにゆっくりと現地入りすればよいわけで何にも代え難い。近年、一部の写真/ビデオ愛好家の場所取りは常軌を逸している面もあると聞き及ぶ。こうした措置は良い方向と考える。愛好家たる者、同じ愛好家から顰蹙を買ってそれに気が付かないようでは哀しいからな。
 三脚を仮置きして挨拶がてら放送ブースのあるテント下に避難させて貰ったが、暑い、暑すぎる。ひどい残暑だ。以降次々と主催者を知る愛好家氏が到着し、歓談の輪が拡がるが、午後ともなると片貝直行組などお疲れの諸氏の中には座ったまま寝こけてしまう姿が続出。テントの下も暑く、座っているだけで汗が噴き出し、ボーっとして意識が遠のくような感じだった。
 18時近くにもなってようやくテントから這い出して準備にかかる。ざっと見渡すにいくぶん観客は少な目だろうか。それが順延のせいかどうかはわからないが、いつもは堤防道路も座り込みや立ち見の客が大勢居るような時間帯だがスムースに通行できている。有料席も心なしか空きが目立つような。
 いつもの堤防道路際が撮影・観覧場所だが、そこの長い斜面には雛壇のように何段にも三脚が並ぶ。有料の撮影場所が確保できなくてもこうして無料、自由な撮影場所は十分だ。それにしても撮影者が本当に多い。さすがに10代の女子中高生は居ないもののの花火を撮ろうとカメラを構える女性も増えたと感じる。私が全国の花火に出かけ始めた当初は花火の写真を撮っている人も少なかったが、なりより女性で花火を撮ろうという写真愛好家の姿を観たことなど無かった。そしてデジタル一眼レフカメラ比率も圧倒的なことに時世を感じる。今現在、銀塩の機材だけは元価格から考えればタダ同然で中古の良品が手に入るから手をつけ易い。しかしそこで新規に銀塩で撮ってみたいという若者が居たとしても、フィルム代、現像代のランニングコストの現実を知れば後込みしてしまうだろう。デジタルは最初にメモリに投資すれば後は1カット撮るにタダ同然だが、銀塩なら成功の1枚にも失敗の一枚にもコストがかかる。
 プロローグ花火が始まる、まだ明るさが残る頃、カメラの設定を次々に変えながら花火を撮る女性が目の前にいた。こうしてその場で写りを観ながら色々試せるところがデジタルの利点だし、そのことに費用がかからない。だから私が時間をかけて会得したようなこともデジタルならすぐに上達出来ると思う。
 午後半ばから風が出てきたが、それからほとんど風向きが変わらず、ほぼ鬼怒川に沿った南〜南南西の風。ここは東成分が入ると好条件だが、この風だとメイン側からは横風となる。開始時間になっても大きく変わらず風力もけっこうあった。煙を綺麗にはらってはくれるれど、開花も乱されてしまうほどの風だ。案の定、冠系は盛大に流されていったが、スターマインでは発煙が滞留しないのは良かった点だろう。
   
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オープニング花火
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オープニング花火

メッセージ花火
三重芯変化菊

メッセージ花火
昇小花八重芯菊先紅光露

メッセージ花火
昇分火付八重芯明菊先遊星

日本の花火 BEST セレクション
伊那火工堀内煙火店
5号・昇小花付八重芯寒色の華

野村陽一 花火GALLERY
白群光芯緑八方咲

野村陽一 花火GALLERY
蜂入彩色千輪

ミュージックスターマイン
あじさいの小径〜雨ニモマケズ〜
山崎煙火製造所

復興祈願花火
“あなたがいるかぎり”
野村花火工業

復興祈願花火
“あなたがいるかぎり”
野村花火工業
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復興祈願花火
“あなたがいるかぎり”
野村花火工業

ミュージックスターマイン
情熱・日の丸色
山崎煙火製造所

夜空のミュージアム
8号・昇侘朴付四重芯菊先紅光露
篠原煙火店

夜空のミュージアム
8号・昇小花付大錦先紅点滅
野村花火工業

夜空のミュージアム
8号・昇天銀竜マドンナブルーの輝き
紅屋青木煙火店

スーパースターマインの世界
天空のファンタジア
菊屋小幡花火店

スーパースターマインの世界
天空のファンタジア
菊屋小幡花火店

スーパースターマインの世界
幽玄夜噺し・forever
篠原煙火店

スーパースターマインの世界
幽玄夜噺し・forever
篠原煙火店

スーパースターマインの世界
幽玄夜噺し・forever
篠原煙火店

スーパースターマインの世界
幽玄夜噺し・forever
篠原煙火店
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ファイヤーアートコンテスト
昇小花芯入ステンドグラス
秋田県 今野正義
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ファイヤーアートコンテスト
昇小花雪牡丹千輪
秋田県 久米川正行

ファイヤーアートコンテスト
昇小花虹の華
茨城県 野村陽一
    
 ナイアガラが消えて無くなってもまだまだ打ち続くオープニングワイドはなかなか豪華だった。次いでメッセージ花火となる。例年のように一般の協賛者に加えて愛好家諸氏が単独であるいは連名で玉名指定の花火を協賛している。今回ひとつだけ違っていたのは、我々のよく知る愛好家の一人が亡くなり、その追悼の花火が打ち上げられることだった。私個人は深いお付き合いがあったわけではないが、親しくされた方々の協賛に私も故人を知る一人として僅かばかりで申し訳ないが参加させていただいた。愛好家諸氏の追悼の想いは3発、8号三重芯2発、8号八重芯1発の献花に結実し天に届けられた。今年は各地の花火大会で震災復興の花火がプログラムに加えられ、多くの祈りの想いが込められた。見知らぬ同胞への追悼もさることながら、花火談義や写真談義に言葉を交わし、意見をやり取りした知り合いの同じ愛好家への献花はより身近に印象的に目に映った。
 今回は特別プログラムとして復興祈願スターマイン〜あなたがいるかぎり〜が野村花火工業によって打ち上げられた。やはり巧い、と思わせる。そして山崎煙火による2度のミュージックスターマインも洒落ている。タイトルと楽曲に合わせた花火による短編物語のようだ。なによりテーマに呼応する花火玉がわかりやすい。これは重要で観覧者の多くはマニアでもなんでもないことを考えれば、タイトルから即座にイメージできる姿にどれだけ近い花火を見せられるかも実力なのだ。山崎煙火はオープニングから出番が多いので、この中で玉が重複しないように工夫されている。これらのスターマインを観るに結局オリジナルな良い持ち玉を豊富に持つ業者が、良いスターマインを生み出す潜在能力があるのだと思えるのだ。
 伊那火工堀内煙火と小幡花火による5号対打ち〜8号というプログラムは私が見ていない昨年からだが、なかなか気にいった。堀内煙火の赤青、寒暖といった色の打ち分けが良いセンスだと感じた。野村陽一花火GALLERYもそうだけど対打ちで上がる玉というのはどうしてこうもワクワクワしてしまうのだろう。
 スーパースターマイン。小幡花火は、打ち方は絶妙だけど、「天空のファンタジア」というタイトルと結びつくモノが何なのか理解できなかった。玉に目新しいというか特徴がいまひとつだったかな。篠原煙火の「幽玄夜噺」は、永遠に、というタイトルだから見納めかもしれないが、これまで何度か披露してきた同タイトルの和火モノという点では解りやすくスジが通っている。この展開は嫌いじゃない。ところどころにフラッシュを散らして、最高輝度のそれと最低輝度の濃淡の和火が同居するという写真屋泣かせの仕様はいつも通り。とはいえ暗い和火の中に、この明滅が独特の艶っぽさを加味していると感じる。つまり「粋」なのだ。近くで動画を録っていた愛好家が、映らない、と嘆いていたからそれなりに録らないとビデオも映らないくらいの明るさなのだろう。作者の篠原氏にして「撮りにくいでしょ?ニヤニヤ♪」と仰るのだから、狙っての同居と言うことで我々写真屋は挑戦されている?
 花火リュージョン。なんというか年々下方の斜め打ちとか扇打ちとかが派手になっていって上空がガラ空きみたいな場面が増えたような……。下をやっているときは下を見せて緩急の緩の部分なんだろうけど、あしらいの豊富な物量に対する少〜しの打ち上げ玉がアンバランスに感じる。最終錦冠連打も例年通りのパターン化している感じで一昨年ともまったく同じ。手慣れていて手慣れすぎている。決まった点火プログラムを部分修正して流用しているかのような。いったん一息ついてまた始まると無理に時間的に引き延ばさずともよいと感じる。この上演時間を持て余しているかの印象。
 スターマインは土浦を頂点に進化している。終わり方もパターンから抜けて、派手に終わる、しんみり終わる、余韻を残す。スカッと終わるetcと煙火店それぞれの煙火店の数だけの終了パターンが在る時代だ。予定調和でない意外な終了を観てみたいものだ。かくいう私も、この大会の同じ煙火店による花火リュージョンを何度も何度も見過ぎているのかもしれない。

 フィルムとデジタルの二本立てだけど、今回はデジタルが思い切りおろそかになってしまった。絞りなんかはこまめに気を遣ったけど、やはり種類の違う2台のカメラを的確な画角とタイミングというのは無理がある。特に今日は風に流され分もあるから構図がシビアーだった。それにしても貴重なフィルムを消費するのは玉村以来になってしまった。レリーズも同時に切っているというより、自分でわかるほどデジタルが遅れている。それどころかフィルムで切ったのを確認してからデジタルをレリーズしているくらいの落差だ。やはり主たる方に集中しないと共倒れになってしまう。スチル写真は連発系ではとくにいわば花火との駆け引きをしているわけで、そこが面白い点でもあるし疲れる所以でもある。つまり花火に合わせて瞬間瞬間に「もう少し引っ張って積むか」「ここで止めるか」「ここで来るか」みたいな露光の駆け引きをやっている。だから決まった秒数開けて閉じるなんていう前世紀の花火撮影方法は意味を成さないのだ。全てうまくいく読みばかりじゃないけれど、そうしたことをやりながら撮っているから集中力も要る。丸録りの動画は絶対に録り漏らすという失敗はないかもしれないが、スチルにはある。そこが面白い点でもあるし、そこから写真の良し悪しも個性も生まれるわけだ。
 昨年は不参だったが、観覧した写真愛好家に言わせると、「フィルム交換の間もない」ほど進行があわただしかったようだ。今夜もそれほどではないものの、フィルム装填が忙しいほどの流れ。こういう時はシームレスに撮れるデジタルは良い。残弾を意識しない。カートリッジを入れ換える、カートリッジのフイルムを詰め換えるという作業がない分だけ撮りに集中できる。最後のプログラム花火リュージョンだけは中盤から横位置では高さが足りない感があって、フィルムの方は縦位置で撮っている。
 ほぼ毎年観覧し、観覧記も書き尽くした感があるが、花火内容は安定して良いし濃密な時間がアッという間に過ぎた。例年どおりの充実した内容だったが、脇でいまいちとポヤく愛好家も居らした。もっとも、長岡、袋井、神明、赤川、大曲等々、豪華絢爛な大会を梯子して来たような諸氏は、もう良いモノを見過ぎて感覚が麻痺してしまっているだろうから仕方ない。今期の私などは大変な御馳走に見える。とはいえ最高と思っていた09年に比べれば、そこまでではないかと思った。それは花火内容だけじゃなく、気象条件も、花火に向かう自分の気持ちも、全て高いレベルで合致していたからだったと考え、そういう時は何度もやって来ない。とくに風向きなどは始まる前から成果がわかってしまうので乗り切れない要因か。これだけ単発玉が流されると、勿体ないというか残念な気持ちで一杯だ。
 片づけして少し歓談していると堤防道路を埋めていた徒歩で帰れるであろう地元客も退いて歩きやすくなった。本部にお世話になった挨拶をして駅に向かう。堤防道路途中が少々流れが悪かったものの、難なく駅まで到達。初めて水海道駅を眼にし、そこを利用するわけだが、拍子抜けするくらい駅前も駅構内もガラガラだった。ちょうど入線していた守谷行きの臨時は座れてしまうくらいだった。花火愛好家諸氏もマイカー組が多いと思うが、今期は特別なのかどうか、車道は渋滞している所をみると、一般客は徒歩と車で観覧に来ている地元と近隣からの来訪が殆どとみた。水海道駅を21時ちょうどに発ち、秋葉原で22時くらいの経過だった。住処からは南流山から武蔵野線も使えるが、帰路の時間帯だと列車本数が激減するので敬遠した。
   

花火リュージョン2011

花火リュージョン2011

花火リュージョン2011

花火リュージョン2011

花火リュージョン2011

花火リュージョン2011

花火リュージョン2011

花火リュージョン2011

花火リュージョン2011

花火リュージョン2011
    
 私が水海道市花火大会を初観覧した1999年度からこの大会ではずっと花火写真コンテストは開催され、私が審査を務めさせていただいている。
 この日、写真愛好家氏からどんな作品が好み(入選しやすいか?)か?と聞かれたのだが、私が正統派花火写真なものだから、それ以外はダメそうだけれど私の門戸は広い。良い写真なら歓迎で、どんと来いです。だ。アートぽい写真も結構だけれど、花火大会からみの写真コンテストだということを考慮すれば、それが「常総きぬ川花火大会の写真」として妥当かどうかは一考を要する。
 私は「自分が気に入るように花火を撮っている」のだから自分の花火写真がお気に入りの世界なのだ、といえば答えになろうか。しかし大会主催の写真コンテストとなるとそれだけでは審査基準になりえない。花火写真として良いものであることは当然だが、「常総きぬ川花火大会らしい」、という点も考慮して選考していると言っておこう。
 もう相当の年月が過ぎ時効であろう写真コンテストがらみのエピソードをひとつ。
 私はこの常総きぬ川花火大会を含めて何ヶ所かの花火大会で写真コンテストの審査員を務めてきた。某花火大会の花火写真コンテストの審査で、ある年その事態は起こった。審査は現地審査もあるけれど、応募作を自宅に送ってもらうこともある、その時は自宅審査で主催者による一次審査を通過した作品が選別されて送られてきた。
 これは、と思ってピックアップした入選候補作品があった。最初は“あること”に気が付かなかった。しかしその大会の一部始終を観ていた私は別の事に気が付いた。「こんな玉、上がったっけ?」。それは観ていない種類の花火だった。そしてそれから驚くべき事に気が付いたのだ。これは、「俺の写真」?
 だってまさか、「そのコンテストが行われる大会以外で撮った“自分の花火写真”がそっくり複写されて応募されてくる」なんて思いもしないじゃないか。
 それは私の制作したカレンダーからの複写写真だったのだ。いろいろ根拠をチェックして最後に、「印刷物からの複写である証拠」として、オフセット印刷の網点(あみてん)が写っていることを確認した。印刷物はルーペで観ればわかるが、通常4つの印刷色から成る規則的に並んだ小さなドットで形成されている。
 しかし驚いたのは、そうした小さな網点がぶれることもボヤけることもなく写し取られていたことだ。その複写の技術とブローニー以上の大判のカメラが使われたかもしれないことに驚いた。こんな腕があるなら普通に花火を撮って応募すればいいのにと。
 普通のコンテストの感覚でいえば、他人の写真の複写で応募なんだから盗作となるが、少し違うと思った。まさか複写した写真の撮影者が審査しているとは夢にも思わなかったわけじゃないだろうから、これは挑戦なのだと受け取った。夢にも思わなかったならたんなるお間抜けである。カメラ雑誌の月例コンテストなどでは、その年誰が審査員をやるかで応募内容が変わるという。つまり審査員に合わせた、その審査員好みの作品を応募する訳だ。だから審査員が誰かは真っ先に確認するはずだからだ。
 今でも対して変わらないが、当時はそれ以上に花火写真家としてメジャーだったわけじゃない。私が審査委員長だったのも、主催者側が私の花火写真を気に入ってくれたからにすぎない。だから偉そうに写真を選ぶ立場の名も知らぬコイツはどれほどのヤツなのか?と年輩の写真愛好家は思ったのかどうか?それで試してやろう、か、からかってやろうなのかわからないが、そうした応募作が届いたのだと感じた。
 そして応募者の“希望どおり”明確な理由を付して失格扱いとしたのだった。気が付かずに入選させていたら「コイツは自分の写真の見分けもつかないのか」と、とんだ赤っ恥を晒すことになったわけだ。人の作品に優劣を付けるのだから、集中して真摯に審査しなければ、と肝に銘じた出来事だった。
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