花火野郎の観覧日記2012

観覧日記その15 9/1
第30回 全国新作花火競技大会

  
長野県・諏訪市


打ち上げ台中心部の初島

観覧場所から打上方向

びゅう観覧席
   
 諏訪湖もご無沙汰している。8月15日の諏訪湖湖上祭は今のところ2006年が最期の観覧。今期はBSで実況中継があって自宅に居ながらにして立石からの観覧。相当の苦労(混雑や時間待ち)をして現地に行くことを考えたらずいぶん楽だと感じた。
 諏訪湖の花火観覧の初期はもっぱら電車利用。今は無き夜行の「急行アルプス」で帰るのがお決まりのコースで、今ほどの混雑は無かったので午前1時発の急行アルプス発車待ちで駅前で一杯飲んでから帰るのも楽しみだった。
 その後この全国新作花火競技大会の前身である「花火サミット in 諏訪」を中心に移動は自家用車になった。混雑する15日の湖上祭は縁遠くなりもっぱら講演会などでお世話になった全国新作ばかりを観るようになった。毎回変わった趣向の玉が観られる新作の方により興味が引かれたこともある。私が最初に前身である花火サミット in 諏訪を観覧したのが1994年。このときの様子は こちら の観覧記で読むことができる。
 1998年から2003年までは毎年観覧していた新作花火競技大会も久しぶりで2003年を最期に来ていない(2002年の頃の観覧記は こちら きっちり10年前だが素晴らしい作品が打ち上がっていた)。翌2004年から毎年のように天候が悪くて行かなかったこともあるが、たまたま水海道市花火大会(現常総きぬ川花火大会)とよく日にちが被り、内容的にも魅力に遜色がないそちらに行くことが多くなったのも理由だ。隣市感覚の常総市と長野の諏訪市とでは行き易さも交通費も桁違いということもある。
 今回は旅行会社の列車による日帰りツアーを愛好家仲間と一緒に利用している。往路は好きな時刻を指定できるが帰路は上諏訪発の2本の夜行列車のいずれかを指定する。諏訪を見始めた頃と違って午前5時台に新宿に帰還する夜行列車は現在の体力的にどうなのよ?という不安もあるが、翌日が日曜で休養できそうなので利用に踏み切った。観覧席付きにもかかわらずツアーは安いのが魅力だ。この専用観覧席だが、それが何処に在り、どういう場所かわからなかったので、保険として勝手が良くわかっている石彫公園の有料自由席も買っておいた。ツアー席といってもシート敷きの広いエリアで整然と座り込む、といったところと考え、私としては自由に撮影できないと意味がないので保険を掛けた。現地で見比べた結果、ツアーに付属する観覧席は使わなかった。場所は石彫公園自由席の右隣で悪くないが街路灯など障害物が気になった。
 有料自由席は前売りでローソンで買うほうが当日券より価格が高いという不思議なチケットで、ローソンの代行料500円がそのまま上乗せされている。当日発行分が2000枚ほどあったようなので、早めに着いて当日券を買ったほうがお得ではある。
 現着は無駄に早い12時。しかし久しぶりの諏訪湖なのでゆっくり周囲の様子を観たかったのと、自由観覧席の開場待ちの様子が知りたかった。並んでいるなら対処したい。上諏訪駅に降り立つのも久しぶり、駅は改修されたイメージだったが中は以前と変わらない。湖畔側に行くのに下諏訪側の狭いトンネルを潜らなければならないのもまったく以前のままだ。まずはさっそく湖畔におもむきロケハンを兼ねて有料席などを観て回る。水辺近くまで行くと、長いストレート打ち上げ台と離れた独立打上台、Kiss of Fireの設置が見て取れた。
 10号打ち上げの中心となる初島だが、私の印象ではこんもり茂った柳の木の緑に覆われている印象だったが、見るとほとんど丸裸だった。いつからか知らないが、花火の夏は枝を落とすことになったらしい。そのおかげで初島の上には鳥居とお社があり、それを囲うように諏訪らしい4本の御柱が立っていることを初めて知った。。
 曇り空はともかく雨の予報は出ていなかったのに、湖畔の石彫公園をウロウロしているうちに13時をやや過ぎてバラバラと大粒の雨が降り出したと思ったら、たちまち本降りになった。宿る場所を探しまわるとそれだけでずぶ濡れになるので、傘をさしてしゃがみこみじっと耐えるしかなかった。近くに居た地元民らしい若者が「全国新作またかよ〜」とボヤくのを聞いて笑ってしまった。私もまた「全国新作=雨にやられる」のイメージだからだ(2004年以降4連発)。電車組だから何でも備えているわけではないので衣類を濡らしてしまうとどうしようもない。予感がして出がけに折り畳み傘をひとまわり直径の大きいものに替えて来たのが幸いした。
 約20分間の雨で済んだがけっこうな降りだった。装備はカメラザックにデジタル一眼一発。三脚も1本だけだが、大曲なみの装備なら傘一つで覆いきれないからけっこう濡らしてしまったかもしれない。
 石彫公園の有料自由席は14時でいったん区画内から全員退場させ、場所取りされていれば撤去する。15時に再びゲートを開けて入場となるがその時は各ゲートの外にあらかじめ行列した順に入るというルールになっている。だからあらかじめ中をざっとロケハンした後は、入場待ちの待機場所に順番取りのシートを敷いておいた。
 初島から15時の合図雷が上がっていよいよ入場。一般観客は少しでも前にと水辺に近い最前列を目指すが、写真屋の私は一番後方の周回通路の際に向かう。街路灯を避け(夜になって点灯したら邪魔)、起伏のある公園の高い部分を避け、できるだけ打上台と湖面が素通しで見える場所を確保する。とはいえ到着時のロケハンで既にターゲットエリアはだいたい決めてあってそこを目指すだけだ。
 とりあえず三脚を建ててしまうとようやくひと安心。両サイドにも三脚が連なるが、諏訪湖はここだけがベストポイントというわけではなく好みの場所に分散するせいかそれほど多くなかった。最前列の水際に場所取りした愛好家仲間から誘われたのだが、初島までの間合いが300メートルを割っていて私の手持ちレンズでは対応できない超接近戦だった。そこからなら一切遮る物が無く打上台が見えるので魅力はあるが機材を揃えてまたの機会に。
 その後もお客の入場が続き、夕刻には当日券もSOLD OUTになったとアナウンスされる。目の前は通路を除いておよそ座れそうな平らなところはほとんど観客で埋まっていた。隣り合わせた地元諏訪在住の客に色々と話を聞かせて戴いたが、これでも一時期より新作の客は減ったのだという。
 

日本の花〜侘寂〜
株式会社山内煙火店

どおん。上がっているのは
菊屋小幡花火店の1発

匠〜七変化之華〜
飯田茂雄(山梨)
株式会社斎木煙火本店

匠〜七変化之華〜
飯田茂雄(山梨)
株式会社斎木煙火本店

monochrome flower
小幡知明(群馬)
有限会社菊屋小幡花火店

スターマイン3
ファイヤーカーニバル

スターマイン4
夜空満開

万華鏡
柿本尚輝(山梨)
株式会社マルゴー
   
 16時過ぎに再び雨に見舞われた。東方向の山間が白く霞んだと思ったらアッという間に降ってきた。既に三脚を建てている方もあわてて対処にかかる。私も建てた三脚の上からゴミ袋を被せて、自分と荷物は傘でしのぐといった状態。レインウェアは無いけれど上着は防水仕様なので中を濡らさないように気を付ける。
 市長などの挨拶の後、予定通りに競技開始となった。空一面はほとんど雲に覆われていた。2度も雨に見舞われたが雲の動きは東〜南東方向から。石彫公園に居て風はほぼ順風の好条件だった。風力は強くないが、斜めに打たれて不安定な盆を崩すほどではないからかえってありがたい。
  私が毎年のように観ていた頃でさえ出品ルールが何度か変わったけれど、現在は1出品者あたり3号玉10発、10号玉2発という内容だ。それらを続けて打つ中でひとつのテーマに沿ったイメージを描く、という進め方は変わっていない。3号10発か、3号で何をどう見せる?せめて5号5発ならな。
 諏訪湖の花火では、湖上祭も新作も10号は初島から打ち上げられている。その上で現在は安全上の理由から湖の沖合に向けて発射角度がつけられて湖畔から観ると真上ではなく斜め後方に飛んでいる。このようになったのは2008年度に初島の整備が行われた際に、発射筒の土台を造り付けて設置したことによる。その時点で発射角度が付けられていたのだという。私が初めてこれを聞いた時は驚いたものだが、打上筒は20度程の角度で傾けられているらしい。確かに横方向から(カリン並木や立石公園など)撮った写真などを観ると明らかに曲導が斜めに飛んで写っていてその斜め打ちぶりがよくわかったし、まるでお辞儀をするようにその曲導も弧を描いていた。私がちょっと諏訪湖とご無沙汰しているうちにこういうことになっていたので今回初めて実際に目の当たりにするわけだ。オープニングワイドスターマインに続いて競技がスタートすると確かに10号は斜めに打っていて、発射位置と開花位置がずれて最初はフレーミングするのに手間取った。最初の3号10初は垂直に打っているので勘が狂う。それと10号は斜めに飛んでいる分、若干到達高度が低めであるようだ。
 プログラムを事前に読んだ時点では、大曲に出品していた業者はまったく同じ玉名またはタイトルでこちらでも出品していて玉がかぶるのではつまらないなと思っていた。ところが同じテーマで主力の10号が2玉使えるので、まったく同じ内容を2発、という出品者は少なかった。だから大曲で同タイトルで打ち上げていた業者も、同じ玉名の趣向違い(芯物→千輪系とか)の作品が観られたのはありがたい収穫だった。
 山内煙火の「侘寂の花」。この玉は今期4度目のお目にかかり。大曲で一応「写します」の意気込みでちゃんと撮れていたのだけれど、今回はデジタル一眼だからデジタルにしかできない合体技で撮っている。暗めの花火を撮るには当然絞りを開ける、で対処するのだが開放に近づくに連れてシャープネスが落ちるんじゃないかとか、被写界深度が浅くなるんじゃないかとか、まぁ高価なレンズではないから心配事が多い(だいたい開放F値が5.6のレンズではそれ以上開けられないとか)。ここも広角目で撮っているからピンが来なくなることは少ないのだけれど、絞りだけでは暗すぎて無理かな〜という星。
 それでフィルムカメラには絶対できないことだけれど、絞り操作に加えてそのワンカットだけISO感度を上げる、またはプラス補正をするという合わせ技でどうよ。と撮る直前に閃いた。しかしそのワンカットを撮ったあと戻し忘れれば以降が悲惨になるので注意が必要だけれど(一回下手こいているからなぁ)。こんなことに気が付くのも少しはデジタルカメラに慣れてきたのかもしれない。2008年にようやくデジタル一眼を手にして以来苦闘してきたわけだけれど、技術屋でも機材オタでもない私はフィルムの感光剤とデジタルの受光素子(センサー)の写りの違いに気が付くまで4年くらいかかってしまった。
 そもそもこの新作では、どうやって撮っていくか?を考える。使用される玉全てでひとつのテーマだから、たとえば公式ホームページの審査結果などに使用されている公式写真では、最初から最後まで全ての玉をひとつの画面に写している。私は3号10発、10号2発と聞いて「基本」10号だけをそれぞれ2カットに分けて撮ると段取りした。まぁそれも臨機応変に、その3号が意外や良い玉だと10号と一緒に撮ってみたくなったりとか実際は変わっていく。
 大曲でも凄かったので、期待していた斎木煙火本店。露払いの3号玉10発なんて観るだけで撮らないと決めていたが、その10発に込められていた星、そしてザラ星に使われていた星、いずれも多段変色星でしかも高速で変色するもの、ゆっくりと色変わりするものなど数種が使用されていて仰天した。これは星だけで価値がある。そして本体の10号これがまた大曲同等の素晴らしい玉。思わず長く尾を引く叫びが洩れる。2発目はゆっくりと何色にも変色する星を遺して枝垂れて……ってじゃない吊り星かっ。なんという小割松島七変化。凝った造りの絶品だ。これも辺りからため息が洩れる。美し過ぎる。何ちゅ−玉を見せてくれるんやと茫然となった。
 全体に新作に相応しい、目に新しい予想外な作品群が観られて来て良かったと満足だった。
 競技が4社進むと幕間にスターマインが何回が挟まるが、今回は初めての試みとして5号100連発というプログラムが加わった。
 スターマインは開幕から以前は考えられないほどに全てワイド仕様で豪華さに驚いた。プログラムにはタイトルが表記されているもののどの煙火業者が担当するのかまでは記載されていない。1番目と4番目は玉を観てすぐに青木か……マルゴーだよ……とわかったのだが、私共愛好家の見た目の分析と事前情報により以下のような順であると推察した。どの回も見応えがあって素晴らしかった。
 4番目がマルゴーとわかったのは、大曲でも使われていた、親星が折り返して咲く玉が大量に打たれたからだ。これは親星がたとえば北極から南極まで順に咲いていくように見える変化をする玉で、同種に某時間差発光球があるが、このマルゴーのものは、南半球まで咲いた色星が色を変えてまた折り返して北極まで戻る、という脅威的に凝った星掛けがしてあるのだ。大曲でも私共は何度も騒いで観ていたのだがここでも登場するとは。
オープニング   株式会社小口煙火
スターマイン1  株式会社紅屋青木煙火店+株式会社山内煙火店
スターマイン2  株式会社小口煙火
スターマイン3  株式会社丸玉屋小勝煙火店  
スターマイン4  株式会社マルゴー+株式会社小口煙火
5号100連発   株式会社小口煙火
Kiss of Fire   株式会社小口煙火
 残念ながらプログラム4番の臼井煙火の時に10号二発目で過早発発生。初島で早くも水上スターマインかという巨大半円開花。そして誘爆か誤動作によりこの時プログラム13番・菊屋小幡花火店の10号1発と続く14番・小口煙火の10号1発を巻き添えにしてしまった。菊屋小幡花火店の10号は写真のように過早発直後に勝手に打ち上がってしまっている。この後しばらく点検に時間がかかった。初島上はもちろん、Kiss of Fireの点火ラインも点検していたようだ。初島という狭い打ち上げ場に10号筒が密集している状況で、これだけで済んだのは幸いなのかもしれない。
 久しぶりに間近に観るフィナーレの「Kiss of Fire」にはあらためて感動した。両端に点火されると周りの観客は総立ちでお出迎えだ。私もオープニングから立ちっぱなしですから負けませんよ。石彫公園一帯は仕掛けの中心部になる初島に相対しているだけに迫力が一番感じられる位置だろう。この振動、衝撃。こればかりはやはり最大の見せ場だ。いちばん近年に観たのが2006年の湖上祭だが、それは遠く離れた立石公園からの俯瞰。この凄まじい爆圧はさすがに距離を置いては味わえないものだ。ズシン、ドシンと振動が響いてきて三脚ごと揺さぶられてはいないかと心配になるくらいだった。半円が重なり合う頃初島からの打ち上げも始まる。この場所から横位置で撮るのは難しかったが、斜め打ちのせいで収まるようになった。
 湖畔で愛好家達と歓談したあと車組、宿泊組とお別れをして駅に向かう。大混雑を予想したが、上り方面の改札側は既に整列乗車規制も無くなり、列車待ちの客も多くはなかった。午前0時1分発の夜行まで3時間近くあるので駅構内で歓談したり、買い物をしたりして過ごす。ぼんやり腰掛けていても先ほどまでの名作の数々が目の前を過ぎっていく感じで満足していた。やはり過去のと変わらなく新しい趣向の玉が見られるこの大会は魅力を失っていない。今後も出来るだけ見て行きたいと思った。
 上り夜行は特急あずさ車両を流用した物で、かつての急行アルプスに比べれば座席ひとつとっても各段に快適だ。それでも慣れない夜行列車、缶ピールを流し込み寝に入るが新宿まで4時間半の行程のうち半分ほどしか眠れなかった。

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