花火野郎の観覧日記2012

観覧日記その6 10/6
第81回 土浦全国花火競技大会

  
茨城県・土浦市

 昨年同様に始発で発って土浦入り。観覧場所到着が午前8時くらい。ああ、しかし。
 それで予定していたどこにも観覧場所の空きが無いのに唖然とした。農道の端は全てシートやらガムテで場所取り済み。長いことほぼ同じ場所で観覧し続けてきたが、例年三脚が壁を成すその一帯にはなぜかそれが1本も無かった。遠目にラッキーと思ったのだが、近づいてみると足下は延々と全て場所取りされて三脚1本もの隙間も無かった。しかもその後、そこには2本ほどの三脚が立ったのみで他には無いことからそれはカメラやビデオの愛好家の場所取りではなく、地元中心の一般客のものと考えられた。
 驚くことに前日場所取り組さえも苦労したとのことで、さらに前日木曜日には大勢が決していたというのだから呆れる。平日に楽に場所取りできるのは地元住人くらいだろうが、今回ばかりは撮影・録画組が駆逐された結果になった。壁を成していた三脚は場所を変えようと望んだのか、場所取りされてやむなくなのかわからないけれど、結果としてバラバラに分散。だから壁のような大群はどこにも形成されず、農道脇に田圃の中にと小人数のグループに分かれてあちこちに散る形になった。
 私もようやく予定の農道脇に確保したのだが、周りには撮影組は10人も満たない。この場所すら前日入りした知り合いの愛好家から余分に確保していた場所を分けていただいたものだ。そうでなければ今居るこの近隣に観覧場所を見つけることは難しかった。いや、これは次からどうしよう。というか始発で来てこれではやるせない。
 昨晩からネット上ではひと騒ぎだった。というのも主催者が開催決定を下したその晩になって土浦の花火会場はピンポイントで雨予報になっていたからだ。それまで前日までと同様好天が予報されていた。
 この予報で遠方から観覧を予定していた客はキャンセルしたかもしれない。私だって北海道や九州から来るとなったらこの予報なら止める。
 出がけに午前4時の予報を見たが変わらずに、15時〜21時で小雨となっていた。まぁ小雨なら、と思い切ったのだが……。
 観覧は決行したが持ち物は影響を受けた。もし予報通りならたとえ小雨でももうカメラ1台しか操作できないから三脚は1本だけにした。もし雨にやられるなら三脚2本は携行にも撤収にも負担になる。装備は大曲と同じく、10号割物はフィルム、その他の競技はデジタルと予定していた。1本でもし両方ならプログラムごとに乗せ換えになるがデジタルで通してもそれはそれでいいと考えた。
 しかし前日来現地に来ている愛好家氏はこの前の晩からの予報の悪化を知らなかった人も多かった。とはいえ車組ならひととおり積んでいるだろうから問題ないかもしれない。
 ようやく場所を得て多くの愛好家氏と歓談して過ごす。しかし日陰に入ってないと居られないくらいの好天。風は心地よいが日向には出ていられない強い陽射しだった。「これで本当に降るのか?」と誰もが口にする。機材があるので広範囲には出歩けないので、極狭い範囲をひと周りするだけだ。堤防の桟敷越しに対岸を見ると、仕掛け枠の下に燃えさかるようにヒガンバナが咲いていた。
   
  
 午後も好天だったが愛好家仲間がスマートフォンやらで雨雲レーダーを監視すると、ヤバそうな一群が接近しているようだった。14時30分を回った頃、お、予報より早くバラついて来たぜ、と思うや小雨で済むどころかひどい降りに変わった。一時はあたりが白くなるほどの土砂降り。「は、半端ねぇぜ……」。
  近年花火大会、またはその待ち時間でこれほど降られたことはない。先日の諏訪でもやられたが都合20分くらい。今回は諏訪の時より荷物が多い上に1時間半以上も大雨にさらされて身動きがとれないとは思いもしなかった。とくに昼過ぎまでの灼け焦げるような陽射しからは(それが予報通りと言っても)信じられない展開だった。予報でも小雨と考えていただけに本格的な土砂降りを浴びるのは想定外。草地だった諏訪と違って舗装された農道の上だと、雨滴の跳ね返りも凄くてそれで大分濡れてしまった。
 急に雨足が上がったのでレインウェアに着替える間も無く下着まで濡れた。上着は絞れば水が落ちるくらいでマンガみたいな展開。機材を入れるバッグもちゃんと雨除けのカバーを持っているのにそれを施す間もなく役立たずだ。田圃がぬかるんでいる、という現地情報もあったので靴だけは完全防水仕様のヤツを履いてきて助かった。
 桟敷の客はどうしたのだろう。嵩上げされた下の空間に移動すればしのげると思うが。機材を護り身を護ってとにかくじっとしているしかない。私の居場所は背後に民家があるせいで風の通り抜けが悪かったのが幸いし、突風にはやられなかったが、田圃のど真ん中や、打ち上げ現場では大雨だけでなく強風にも難儀したらしい。
 夕刻、西側正面の雲間から傾いた太陽が現れて一気に明るくなり、次第に回復していった。すると対する東の空には綺麗な半円の虹が現れた。あたかもこの土砂降りの試練にその場で堪え忍んだ者だけに与えられる天からのご褒美のように思えた。二重の虹は近年見たことのない美しさだった。
 この午後時間帯からの土砂降りで、比較的近隣の客は出足を削がれたか、出かける事自体を取りやめたのかもしれない。その後、開始までの時間に周辺は例年ほど混み合った状態にならなかった。
 開幕の余興花火は見送って、標準審査玉で画角を見る。今日は例年と向い角度も間合いも違う場所なので再確認だ。それから最初はフィルムカメラを載せてそのフィルムが無くなるまで10号と創造、スターマインを撮ってからデジタル一眼に乗せ変えて以降それで通すことにした。プログラムの合間が余りなく、とくにスターマイン終了から10号が直ぐだった。この時スターマインの撮影設定(F値とか画角とか)から10号のそれにチェンジするのにデジタルカメラだとけっこう手間取るのでいちいち乗せ換えは無理と判断した。それと既に開幕余興花火のスターマインの最初の開花を見てただちに5号程度すら霞んで見えることに気が付いたせいもある。雨が止んでからしばらく経って陽射しも出たというものの、空気中の湿度が相当に高いようだ。それで今宵はもはやスッキリ晴れやかな画像は得られないと、フイルムを使うのは無駄であると判断したのだ。10号は最初の5組ですでに霞んでいたしスターマインはもっとてきめんだった。光量のある玉や星が放たれると、まるでフォギーフィルターを使用したように光が拡散しオーバーになってしまうのだった。残念な条件だ。土浦では10年に一度あるかないかの撮影には悪い条件だ。
 開始早々のアクシデントといえば、6番・小関煙火の10号玉が競技では珍しく「黒玉」になったことか。開発高度に達しても音沙汰無し、で、うはぁやったな……。地上で半円の開花になるかとドキドキしたが、実際はショボショボ燃えただけだった。後から聞いた情報では、玉はイオンの屋上に落ちたということだ。普通に割薬で開花する前に落ちた衝撃で玉が粉砕してしまったのだろう。割物は玉殻があるから大きく開くわけで、その入れ物が割れてしまえば残り火があったとしても中のこれまた粉砕した星が大人しく燃えるだけだ。大人しくといっても星1粒はシュバババババーッくらいの勢いでは燃える。けが人も無くイオンの建物にはなんら被害は無かったようでなによりだ。
 このほかにも大雨の影響か花火自体の問題かいくつかトラブルがあったようだが、離れた観客の眼からはほとんどわからないと思う。
 しかしあの午後の土砂降りの時間がここに来ないだけましだった。しかしそれでも絶えず周りの空を見回してしまう。いつ雨が落ちてもおかしくないからだ。しかし中盤は晴れた空にはなったが湿気は変わらなかった。終盤には東北東方向から低空の雲が次々に現れて打ち上げ上空を通るという悪条件になってしまった。これにより10号は完全にこの低い雲を通しての開花を見る形になり、盆も見えないし写真にも写らないくらい星の光が落ちた。のちに割物優勝となる野村花火工業の10号などほとんど見えなかったので優勝に足りうるのか評価もできない(写真参照)。同じくスターマイン方向の空も移動性の低空の雲に覆われてそうとうの作品が本来のパフォーマンスを見られなかった。写真に撮るまでもなく流れた雲に光が拡散しているのがわかる。フィルターでなく本物の霧に一部が包まれた感じだ。
  

1.聖礼花
〜パステルカラーの奇跡〜
株式会社齋木煙火本店

3.昇曲導付三重芯変化菊
株式会社山内煙火店
早くも霞んでいます。

51.昇り曲付四重芯変化菊
株式会社紅屋青木煙火店
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76.昇曲導四重芯変化菊
株式会社小松煙火工業

84.昇り曲導付四重芯変化菊
野村花火工業株式会社
・・・見えません

26.マンジュシャゲ
株式会社イケブン

27.日本の花火「侘び・寂び」
株式会社山内煙火店

27.日本の花火「侘び・寂び」
株式会社山内煙火店
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27.日本の花火「侘び・寂び」
株式会社山内煙火店
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58.匠〜七変化之華〜
株式会社齋木煙火本店

58.匠〜七変化之華〜
株式会社齋木煙火本店

58.匠〜七変化之華〜
株式会社齋木煙火本店

58.匠〜七変化之華〜
株式会社齋木煙火本店

58.匠〜七変化之華〜
株式会社齋木煙火本店
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59.Strength and weakness
有限会社菊屋小幡花火店

80.夜空の子守歌
野村花火工業株式会社
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93.哀歌
株式会社マルゴー

ワイドスターマイン
土浦花火づくし

ワイドスターマイン
土浦花火づくし

ワイドスターマイン
土浦花火づくし

ワイドスターマイン
土浦花火づくし

ワイドスターマイン
土浦花火づくし
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ワイドスターマイン
土浦花火づくし

ワイドスターマイン
土浦花火づくし
 
 大会提供は合間の打ち上げ箇所が増えて華々しい。それでいて全体にゆったりしたペースで打つのは心地よい。今回は見る場所を例年と変えたのででほぼ正向きに観ている格好だ。見た目のワイド感のわりにはこの花火づくしの総延長は600メートル程度。大玉もその中のただ一箇所で打つだけなのに雄大な感じがするのはやはりワイドでありながらそれぞれの玉がよく見えるのと、ピッチがゆっくり目なところだろう。興奮というより観ていて穏やかな気持ちになれる打ち上げだ。私自身はこういうテンポでこそ土浦花火づくしらしいと思うのである。
 出品作の中では齋木煙火本店が割物、スターマインとも圧倒的かつぶっちぎりの内容だったと私は観たが、審査での評価は低かったようだ。全員が普段花火観覧とは無縁の審査員には何も求めないが、いくらなんでも評価が低すぎる。特に割物は妙なる開花だったし、多重芯ものではない作品の中でも異次元の出来だが、プログラムの第一番というのはあまりに不利な登場。スターマインは何処を評価したか?という審査のポイントは明かされていないが、ぜひ一人一人の審査員に聞いてみたいものだ。どうしたら最後の3組のスターマインが揃って入賞するのかとか、大会提供が入るまでの前半1時間のうちでたった1作品だけしか入賞しないのか?とかをだ。それはさておき何を重視した評価なのか?で左右されるだろう。つまり先進技術を評価するか?それともストーリー性や、情緒感で観るか?だ。
 齋木煙火のザラ星から仕込んだ星、その全てが経過時間の違う虹色変色星というのは圧倒的過ぎる。夕刻に観た綺麗に7色揃った虹のように芸術的な美しさだった。割物もオリジナルだし非の打ち所のない一幕。しかしその夕方のように誰もが美しい虹を観た、というところまでの気はする。虹が恋愛劇の架け橋というでもなく、虹の元での出逢いや別れの人生ドラマが始まる訳でもない。虹がストーリーに取り込まれていない感は少々ある。優れた役者は揃えて披露したが、ドラマはまだ始まっていないみたいな。とはいえこの作品は虹の造形を見せるのでなくその構成要素の7色の変化星がテーマだからそこまでは求めてはいけないのかもしれない。
 楽曲とともにストーリー性や情感に訴える演出の方が評価が高かったのかも知れない。しかし凄い技術と新しさを見せることも競技の大切な部分だ。テーマに沿った部品を造り、玉を造り構成や音楽を考えるのと、既にある手持ち玉を組み合わせて新しい風に見せるのとでは違いが在りすぎる。タイトルからしてこれは虹色変色星の秀逸さを見せる出品なのだからそういう点を理解し評価できる審査員だと良かったのだが。こうした瞬間多色変色星は近年多く使われて来たが、齋木煙火のそれは明るさの具合や変色スピードが目で観てそれとわかるくらいなのがいい。やたら明度が高いうえで何色も変わっても全部“まっ白”くらいにしかわからないからだ。
 青木煙火の作品は刹那的な開花を繰り返す独特の間合いだが、明るい星が打たれた瞬間に気象条件的に荒みこんで光が拡散し、よりいっそう眩しくなるので見づらかった。
 マルゴーは大曲でも写真屋を苦しませてくれたが最大輝度と最低照度の繰り返しがもの凄い落差で、暗い方がみえませんという位だった。しかし目も眩むような鮮烈なピンク星とかとにかくオリジナル性が高い。
 創造花火は相変わらずなんだけれど、クジラは造形も連続した現象も楽しくて良かった。
 競技が終わったあとは再度大会提供の7号玉81連発(大会開催回数)で締めくくった。昨年と同様に歩いて駅に向かうかシャトルバスにしようか悩んだが徒歩をチョイス。バスの待ち時間は20分ほどだったという。
 土浦駅構内に入ると21時20分くらい。改札規制を待っているうちに外は音がするほどの土砂降りになった。危ういところだった。
 スーパーひたち君の窓に斜めに無数に流れる雨滴。外は大雨で結局自宅の最寄り駅に着いても止まなかった。駅から自宅までにまたまた機材を雨対策して歩かなければならなかった。深夜だが家の中に濡れた物を展開してから寝る。始発で出てから19時間。雨に疲れ切った長い一日だった。
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