花火野郎の観覧日記2013

観覧日記その3 5/3
ツインリンクもてぎ 花火の祭典〜春〜

  
栃木県・芳賀郡茂木町


メガジップライン「つばさ」

中継点で乗り換えてスタート

中継点で乗り換えてスタート

エントランス外から中継点左右の
ワイヤーが見える
  
 宇都宮駅から現地に向かう路線バスからの車窓は溢れるばかりの目映い新緑の連続だった。
 あちこちで目にする水を張った水田では早朝から田植えの準備や、既に田植作業が始まっている所もある。そうした光景や若い緑に心が浮き立ち何度も途中下車して写真を撮りたくなったが、ツインリンクまでは一日1本の直通便だから降りるわけにはいかない。マイカーなら宇都宮からツインリンクゲートまでは約1時間で達するが、あらゆるバス停を縫って走るバスはそうもいかず、渋滞など皆無なのに2時間近くもかかって中央エントランスに達した。終点まで乗っていた客は8名だった。
 それにしてもこれほど新緑に溢れたツインリンクは初めてだ。昨2012年までこの季節に花火イベントが無かったし、その昨年5月はとんでもない悪天の中で開催されたので私は行かなかったのだ。すでに自宅周りで土砂降りでとても開催強行するからといっても出る気にもならなかった。
 バスを降りてすぐに気が付いたのは、上空で聞こえる「シャゥゥゥー」という滑走音。と上空に張られたワイヤーに人がぶらさがって滑空していく。おおお、これがそうか。
 ツインリンクもてぎの新アトラクション、メガジップライン「つばさ」だ。これはハローウッズの森、山の中腹に設けられたスタート台から中央エントランスの中継地点を経て、ファンファンラボ下の到着地点に達する全長561メートル(1本目343メートル、2本目218メートル)、高低差20メートルのワイヤー滑空アトラクション。よく近所の公園などにある「ターザンロープ」などと呼ばれる滑車を使った子供向け遊具の超拡大版といえる。1回の料金は1200円。遊具とは違ってヘルメットを被り専用のハーネスを着用して吊り下がる。
 テレビCMやもてぎの公式HPの動画などではそのスピード感や落下するかというほどの高低感で、なんという恐ろしいアトラクションか、絶叫マシンかと畏怖していたのだが、実際目の当たりにするとさほど高速移動なのではなく、なんとも「気持ち良さそう」。
 しかしこの大がかりな仕掛けだが、昨年暮れの公演の時には影も形も無く、予告もされていなかったのだから、いつのまに出来たんだろう?と驚くばかり。僅か3ヶ月ちょいで造り上げてしまったことになる。
 風向き予報からいつもの北西側の第2ターンにとりあえず三脚を置いておく。時に午前11時。ゲートオープンは9時30分だったようでマイカーで先着組の愛好家氏はすでに何人か到着していてご挨拶。花火の設置もまだまだでどういうセッティングかまだよくわからない頃だ。今日の目玉商品である「ナイアガラ仕掛け」もそれに使うだろうクレーン車3台がコース上に置かれているものの滝ランスの設置はおろかワイヤーも張られていなかった。それで場内の撮影や昼食などで時間を潰す。あちこちの植木も素晴らしい新緑でそしてその中に立つ「つばさ」中継点の櫓が一際高く映えていた。そこに向かって繰り返しお客が滑走してくる。陽光に溢れ、明るい緑に溢れ、本当に心が躍る休日だ。
 働くクルマ大集合ということでその手の専用車両(クレーン車とか、高所作業車とか)が一堂に会していたが、エントランスの外では背の高いクレーンが子供の日宜しく鯉のぼりを高く高く掲げていた。
 昼過ぎに意を決して、撮影機材はコインロッカーに預けて、「つばさ」で滑空しに行くゾと奮い立ったのだがその矢先、知り合いの愛好家から「今日の分の整理券終わったみたいス」と聞かされて、おい……この奮い立った決心をどうしてくれるんよ……。まだ12時半じゃないかっ。そんなにメガ人気ならただちに並べば良かったぜ。夏はもっと難関だろうし、秋、冬は滑空するには寒そうだし、しかしスタート台に立ったらビビるんじゃないだろうな、俺。 
 公式HPなどで「つばさ」の新設とその中継点の位置から懸念していたのだけれど、ロケハンして確認することになった。有料A席後方、エントランス広場一角に設置された中継点は背丈も高く、そこからV字にワイヤーが延びている。場外から観覧撮影すると、気にするほど高く張られているわけではないが、果たして電線のごとく花火の根本にワイヤーがシルエットで入ってしまうだろうと思った。
 チケットがずいぶん間際でも買える状態だったがGWらしく場内は一般客でそこそこ賑わっていた。3日のこの日、バッティングしている花火イベントは少ないはずなのに花火愛好家は思いの外少なかった。三脚が建ち並ぶほどでもなく、歓談する顔ぶれも少ない。やはりツインリンクに春夏秋冬訪れるのは愛好家であっても少ないのかも知れない。私としても、先代が二尺八重芯を雪辱した2007年に、もう夏の茂木は見終わったと感じた。ずいぶん観たし十分に満足したからだ。
 汗をかくほどの陽気だったのは午後2時くらいまでか、それから次第に雲が増えて、15時過ぎからは冷たい東の強風が渡る不穏な天気になっていった。ツインリンクで東混じりの風は凶風。全観覧席が風下になる風だ。予報と違っているが、いわゆる大気が不安定という状態になり、そこに風が呼ばれている感じか。夕刻には暗い雲があちこちに拡がったと思ったら、雷鳴、稲光を遠くに見るような天気になり、小雨も降った。幸いに少し雨宿りして済んだが、場内アナウンスでは打上時刻にも雨予報が出ているので雨具の準備をせよと促している。
 この強い東風に割を喰ったのは「つばさ」だった。スタート地点から中継地点までは、吹き上げる向かい風の中を進むことになるため、設計より初速が落ちるのか中継地点まで届かない客が続出。そうなると自力では進まないので、スタッフが毎回一人一人の客をレスキューに向かう、といった恐らく想定外の展開になっていた。
 

  

  

  

  

  

  
 
 花火の設置を見ると残念ながら尺筒はかなり少な目だったが、その分7号が多め、4号くらいのワイド一斉などが用意されているようだ。最後まで準備に費やしていたのはピットロード上に用意された500メートルのナイアガラ仕掛けだ。クレーンは左右と中間に3機用意された。滝ランスを取り付ける作業に相当時間がかかっていたようだ。ナイアガラの位置や幅がこうして決まり、撮影位置も決定した。第2ターンのハス位置からは500メートル全てをカメラ横位置で捉える事が出来るが、さて本番ではどうなるか。
 今日の撮影装備はデジタル一眼2台の三脚も2本だが、天気が悪化すれば1本は放棄。カメラ一台しか無理かも知れないと三脚には一台だけ載せてスタンバイ。
 本来の北風予報に変わることを期待したが、最終東北東くらいになった。打上開始当初は弱めの東風モロで半ばあきらめたが、それから東北東くらいで安定し、風力もあったので発煙するものの幕間のアナウンスの間に毎回綺麗に流されていくくらいになってそこそこ見通しはよかった。開始直前にこのまま雨にはならないだろうと踏んで、カメラをもう一台増やして2台体勢とした。
 花火開始時の出で立ちは大晦日公演の時と変わらない真冬支度。アウターは5月というのにダウン。ポケットには使い捨てカイロ。アンダーはヒートテック。しかし周りの一般客を観るとおそらく近隣地元の客が多いのだろうしっかり防寒対策しているのに驚いた。私もこのところ肌寒い日が続いているとはいえ、出がけにアウターをダウンにするかフリースにするか迷った。到着してみると快晴の場内は汗をかくほどでダウンはさすがにやり過ぎかと思ったが、日陰では寒かったくらいだから、こうも冷え込むとダウンで正解。
 花火はほぼ有料席の範囲内にしか設置されていないので、第2ターン側からだとコンパクトに収まる。グランドスタンドとVIP席の在る建物を包み込むように煙が流れている。東風モロだと、第2または第3ターンのハス側から観れば直撃は避けられる恰好なので、愛好家氏達はおそらくそのどちらかからの観覧になったと思う。
 音楽を使わない、という試みだったが音楽が在ってもなくても私にはどちらでも良いと思った。花火自体がリズミカルな発射と開発音を奏でるのだからとくにあるなしは気にならない。
 最終ステージでナイアガラ仕掛けに点火された。夕刻に最終形態のナイアガラ設置を確認したが、中央に向けてずいぶん張り位置が低いと思った。なにせ滝のトップを見下ろしているような低さだ。左右のクレーンのアームはもっと高かったが、風向き予報などから低めに設置したのかと思われる。高く張れば風に乗った火の粉がスタンドに達してしまうと見込んだのだろう。開始前に放送ブースに呼ばれた現社長が、(菊屋小幡花火店としては)初めての試みと語っていたが、確かに私は見たことがない。この出し物はメガジップライン「つばさ」を模したということでもてぎ側からのリクエストなのかもしれない(だから全長500メートルにこだわったか)。ワイヤーアトラクションだからワイヤー仕掛け(張り物)というのか、なんというド直球。点火されるとやはり猛烈に発煙してスタンドを煙に巻いた。さすがに低すぎてナイアガラだけ横位置では絵にならず、縦のまま裏打ちが入るのを待った。それから錦ワイド、銀ワイド一斉へと転じるいつもの小幡フィナーレ。
 やはりこの時期にこれだけの物量と質感の打ち上げを見られるのは嬉しい。今回は全体的にまずまず菊屋小幡花火店の本領発揮といったところ。 昨年暮れの公演と同様に随所に八方咲き系を配した構成は華やかで彩りに溢れていた。細かい角度を付けての星やトラの扇打ちなどこれまでの茂木に無い打ち方を取り入れているのは前向きだ。点火タイミングも散々学ばせてもらった小幡花火ならではのもので、それだけに読み易かったともいえる。尺玉は6発と少なかったが、そこに込められていた2発の四重芯がいずれも四重芯として開花したのは安堵した。こうでなくては。これでこその小幡花火。しかし私にとっては予定調和の小幡花火だ。500メートル程度のナイアガラは我々にはサプライズが薄いので暮れの公演と大差ないように感じる。それにナイアガラの壮大さより、発煙でその後がダメになるだろう、という読みの方が勝って残念感が最初から沸いてしまうのだ。これからの小幡花火に期待したいと思う。新世代が先代と変わらずに私共を驚かせてくれるとしたらそれは何とも素敵な楽しみだ。
 終了後は知り合いのご厚意で宇都宮駅まで車で送って貰ったのだが、場外に出てほどなく走ると茂木の町中からしばらく相当の雨に見舞われた。サーキット上空が予報に反して降られなかったのは幸いだった。
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