花火野郎の観覧日記2016

観覧日記その18 8/20
第26回 赤川花火大会

  
山形県・鶴岡市

 台風の影響か、自宅周りではひどい雨降りの朝だった。駅までの僅かな距離でびしょ濡れになってしまう。それから関東地方を出るまで新幹線の車窓はずっと雨だった。
 新潟からは好天で、美しい色合いの日本海を眺めながら鶴岡を目指す。自宅で往路の車内で、時間を追って最新の天気予報を何度見ても、何処のサイトを見ても鶴岡は綺麗に安定した東風。予報サイトによって微妙に違うのは風力くらいで、東風予報は動かない。それでも現地では違うのかもしれない。しかし東西に位置する鶴岡駅に降り立ってみれば左頬に吹き付けるガチな東風。また綺麗な東方向。これで気持ちは固まった。タクシーを呼び、そのまま赤川の対岸に直行した。直行と言っても交通規制されているので、大会本部に相対するような裏正面の位置までは乗り付けられず、三川橋を渡りきったところくらいまでが限界で、残り800メートルくらいは徒歩。対岸は見渡す限りの稲田だから、日陰も一切無い農道を歩く。あらかじめ逆風だったときの事を考えて、ストリートビューして候補地をいくつか決めてあった。
 負担になる機材カートを途中でデポして三脚だけ持ってちょうど大会本部を真正面くらいに見る農道に達すると、既にそこには車で早着した愛好家や地元の客による多くの三脚とシートが連なっていた。場所を探すが切れ目がないくらい。14時近くだった。電車組にとってはどうしようもないが「今頃来てどうするの?」と言われているようなもの。しかしそこから場所取り可能な農道について、通行や観覧や三脚が可能かどうか方針が二転三転したおかげで私は事前にバーチャルロケハンしていた場所近くを確保できた。対応できたのは空いてないことでどうしようか?としばらく自分自身が現地に居合わせてろうろしていたのが幸いしたことになる。
 私の前から直ぐ先は安全距離内になっていて、全ての花火設置は堤防の向こう側の河川敷にあるから筒は直接見えない。そしてメインから見て対岸堤防の向こう側農道に置かれる二尺の筒だけを直接見ることが出来る。観覧場所は3箇所に置かれた二尺筒のうちセンターをほぼ正面に見る位置。左右はそれぞれ約250メートル離して、計500メートル幅で3箇所からの二尺打ちとなっている。一カ所あたりは2本。都合6発の二尺玉が用意され、私が現着した時刻にはちょうどセンター位置の装填をやっていた。
 私にとっては1999年に赤川花火大会に来るようになってから初めての対岸での観覧だ。俗に「裏」と呼ばれるそこからの写真や動画は昔からたくさん観ていた。徒歩では距離もあるしなかなか最初から裏、というのが踏み切れなかったのだ。しかしこの風だ。
 一昨年、同じような風向きでもっと弱含みだった2014年度。メイン側からの観覧にこだわり、そして後悔しか残らない年だった。どんなに素晴らしい花火も演出も物量も、風下に立ちはだかる壁のような煙幕の前には何もならない。何の感動もない。それがその年のドキュメントだとしてもそこには無惨な後悔しかなかった。私はこの年にはっきり考えが変わった。花火観覧もいつまでも出来るわけじゃないから、今回は悔いの残らないよう、好きなように好きな場所で撮るつもりだった。風向きに従ったのかメインのカメラマン席では櫛の歯が抜けるように疎らになったという。
 立ち位置が決まった15時過ぎに大会本部にご挨拶するために一度撮影場所からの往復をしている。片道でだいたい2.2キロメートル。この日はずいぶんたくさん歩いたことになる。終了後は駅側のホテルまでまた3キロほどの歩きだし、撮影場所近くは水場もトイレも日陰もない。国道345線のコンビニあたりまでトイレに行くにも往復で1.5キロメートル近くの歩きだ。基本的に裏の農道の最前線は観覧は出来るが車は入れない(通行が不可)。歩いて本部に行ったおかげで三川橋の途中から打ち上げ現場を横方向から遠望することが出来た。
   

撮影場所遠望(三川橋上から)

打ち上げ場所(三川橋上から)

月山?方向。

夕刻の裏農道の状況。
     

夕刻、下は煙火店さんの車
     

オープニング「ナイトファンタジア」
株式会社マルゴー

オープニング「ナイトファンタジア」
株式会社マルゴー

オープニング「ナイトファンタジア」
株式会社マルゴー

オープニング「ナイトファンタジア」
株式会社マルゴー

オープニング「ナイトファンタジア」
株式会社マルゴー

ドラマチック花火「Dolphins
〜恋するイルカショー〜
株式会社磯谷煙火店

ドラマチック花火「Dolphins
〜恋するイルカショー〜
株式会社磯谷煙火店

ドラマチック花火「Dolphins
〜恋するイルカショー〜
株式会社磯谷煙火店

ドラマチック花火「Dolphins
〜恋するイルカショー〜
株式会社磯谷煙火店

ドラマチック花火「Dolphins
〜恋するイルカショー〜
株式会社磯谷煙火店

市民花火!「流転(るてん)」
株式会社紅屋青木煙火店

市民花火!「流転(るてん)」
株式会社紅屋青木煙火店

市民花火!「流転(るてん)」
株式会社紅屋青木煙火店

市民花火!「流転(るてん)」
株式会社紅屋青木煙火店

市民花火!「流転(るてん)」
株式会社紅屋青木煙火店

エンディング!希望の光「しあわせ花火」
有限会社伊那火工堀内煙火店

エンディング!希望の光「しあわせ花火」
有限会社伊那火工堀内煙火店

エンディング!希望の光「しあわせ花火」
有限会社伊那火工堀内煙火店

エンディング!希望の光「しあわせ花火」
有限会社伊那火工堀内煙火店

エンディング!希望の光「しあわせ花火」
有限会社伊那火工堀内煙火店
   
 本部から戻って疲れて農道に座り込む。正面に沈む夕日を眺めながら背中に風を受ける。稲田は夕日を浴びて金色の絨毯になって輝く。日陰のない炎天下だが今日は絶えず強めに東風か吹き抜けているのと、田圃のまっただ中に居るせいで耐えられた。たわわに稲穂が満ちる田圃の真ん中は例えばコンクリートのふ頭などと比べれば意外と格段に涼しいのだ。この日は予報通り、花火が打ち止めとなったその後まで東の風が安定して途絶える事がなかった。
 開始早々は、日没方向が花火の背景なので絵にならないかと懸念したが、快晴に近い夜空は直ぐに暗くなった。
 カメラは2台体勢。メインは24ミリからのズームで全てのプログラムを縦位置。画角は割物とデザイン花火とで40ミリくらいで大して変わらず。サブは4つのワイドプログラムのみを超広角横位置で撮る専用。立ち位置から一番近い真ん中の二尺の筒までの最短距離は550メートルとメイン側で二尺と相対するより若干遠い。しかも押し風なので16ミリまで広角があれば入るだろう。それでも二尺が入るエンディングだけは、予感がして直前にメインカメラを14ミリ超広角に換えて万全の保険を掛けた。昨年は縦で撮り続けたのだけれどなんか胸騒ぎがした。後で結果を見ると16ミリズームの方はメインより間合いがあるのに二尺の盆があやうく天に付くくらいだった。危ない危ない。この交換劇もエンディングの開始までが長引いたおかげといえる。
 裏では花火の開発音以外は一切の大会らしい音が聞こえない。進行のアナウンス。場内アナウンス。花火に合わせる音楽など。そして花火筒からの発射音も手前の高い堤防が壁になって減衰されてしまう。だから音が必要な動画組は当然ながら、スチル組にも裏は花火的にはつまらない。という声が聞かれる。私は、というと全然OKだった。もちろん燃焼カロリーを感じるほどの迫力は無いけれど、闇夜に花火もさることながら、音楽付きの打ち上げなんて以前はそんものなかったから目の前の花火だけで十分楽しめる。そして無音かというといちおうエフエム 山形による実況放送がある。裏になることに備えてマルチバンドレシーバーを持ってきていた。しかしこれが途中何度もイヤホンを外そうかと思ったくらい、99パーセントが進行に関係のない大量のお喋りと雑談、視聴者からのメールの読み上げばかりだった。
 最初は花火屋さんが解説に付いていたので安心して聴けると思いきや早々に交代になった。二人のパーソナリティーはそれが商売だから黙っていることはできないにしても、プログラム誌には「実況生中継」と記載されているものの、肝心の進行(次は○○煙火店の○○○です)をまったく、ただの一度も、放送しなかったのはどうかと思う。雑談結構だけどそれは最低限の大会の流れを伝える合間にやって欲しい。それでも猛烈なお喋りの弾幕の背後に、かすかに聞こえる本来の場内アナウンスが進行を知る助けにはなった。しかし音楽付きのプログラムの間もそれは放送に流さないから、音楽に合わせて撮るというような事は出来ない。勝手に対岸で見ているものの、メイン観覧席でスピーカーから流れているのと同じ音だけを放送してもらえたらと願う。
 会場ではデザイン競技の時は「会場左手をご覧下さい」などと、業者によって設置場所が違うので、花火の出所を親切にアナウンスするのだけれど、FMじゃプログラム経過に関係なく打ち上げ中でも雑談が続く。スターマインの発射のタイミングと出る位置は、最初の一群が射出されて、その僅かな、かつまとまった発射音と方向で判断してカメラを向けていた。割物の時は、発射位置は同じなのでそちらに向けて、これまた曲導が出てから対応するといった具合。
 今回の進行では風の影響かその降灰によるものか、長い中断があった。FMを聴いていなければどうなっているのか知りようもなかっただろう。その意味では「安全確認をしているようです」くらいの最低限の状況は放送してくれたわけだからそれはありがたい。市民花火(青木煙火担当)の後の中断が10分以上と長く、次は割物競技からだったが、確認が終わって本割りが再開する時に何も言わないでお喋りをしているから、放送を聴いている私にも「い き な り 曲導!」ww。備えている私はそれでも撮りを合わせるが、これを撮り逃した愛好家も居るに違いない。その後、最終プログラムのエンディングがまたなかなか始まらなかった。放送では再び安全確認と言っていたが、事実か演出かわからないものの風向きや風力、物量を鑑み打つか打たないかの協議をしていたらしい(3日もかけたセッティングを打たないとなれば一大事だ)。中断が長すぎて間が持たないFMでは音楽などを流していた。結局はプログラム通りに消費したわけで良かった。途中の煙通過待ちもあって終了時間が長引いて予定を30分近くオーバーした。写真の最終カットは21時27分になっている。
 今回はメインに向かっての風向きで、降灰の問題はあるけど、風力があっただけに煙も速やかに飛ばされて、まったく駄目だった2014年ほどのことはなかったのではないかと推察する。
 デザイン花火はそれぞれの業者の個性が光った。どれも見応えがある出品で、もっと、続きは、と競技だから呆気なく終わってしまうのが惜しいくらいだった。割物の発射位置は向かって左の端くらいで、順風とはいえ、方向的に風は横流れとなる。だからどの玉も流され気味で、冠系は引き先が撮っている画面から出てしまうこともしばしば。割物のキマリはイマイチだったように思う。放送でいくら絶賛しても反対側から見ると盆の一部の星がばっさり無かったり、そうした崩壊玉がいくつも在ったのだ。
 ワイドプログラムは4つともいずれも眼前に展開する光景が信じられないほど素晴らしいものだった。夢のようなどころか、今見ているその光景を実際に目の当たりにしてることが信じられなかった。エンディングではそこで初めて二尺が6発続けて打たれた。高い!その高く昇りつめること。間合いが遠いのだから大丈夫と思いながらもはらはらとする高みで開く三重芯ばかりのラインナップは目も眩み、陶然となる姿だった。用意された全ての花火が放たれて、空が漆黒の静寂を取り戻すと同時に、東風がいちだんと強くなった。
 間違いなく私にとってプログラム全てが今期一番の花火パフォーマンスとコンディション。私もまた最高の撮りだった。リオのオリンピックではメダルを取ってガッツポーズする若い選手達の姿をたしなめる年寄りも居たそうだが、私はなんのその、ガッツポーズを決めたままそこらの農道を叫びながら転げまわりたいくらいの気分だった。私はようやく2014年のここ赤川花火大会での無念の雪辱を果たすことが出来たのだから。ホテルに向かう足取りも揚々として軽かった。最高の花火内容と運営に天のくれたコンディションに心より感謝したい。
 花火後は知り合いの愛好家氏からのお誘いを受け、楽しい飲み会に参加させて貰った。この日の素晴らしい花火に加えて多くの同好の士と共にまた素敵で有意義な時間を過ごさせて戴いて感謝。
 台風で東北北部から北海道は被害を受けたらしいが、翌日の鶴岡もまた好天の朝。綺麗な日本海を見ながら引き上げる気分も充実していた。

8月25日付け朝日新聞デジタルによると、「この日花火の殻や燃えかすが観客席などに落ち、約10人がけがをして会場で手当てを受けたことを、主催した実行委員会(事務局・鶴岡青年会議所)が明らかにした。やけどのほか、落ちてきた殻が当たって頭の骨を折るけがをした人もいたという。」観客席方向に風が吹き、燃えかすが観客席などに次々と落下。約1キロ離れた住宅街にも落ちたほか、午後8時前には観客席近くの草むらが燃え、待機していた消防署員が消し止める騒ぎもあったもよう。
思わぬ重傷者を出してしまった事、まことに残念に思います。けがをされた方の一日も早いご回復を祈念致します。
    

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