花火野郎の観覧日記2017

観覧日記その26 12/3
秩父夜祭り 日本芸術花火大会

  
埼玉県・秩父市


撮影場所から工場と
打ち上げ方向

虹色のグラデーション
山梨県 斎木慶彦

ラピスラズリ
愛知県 磯谷尚孝

四季の彩艶
新潟県 本田正憲

黄金の滝
   
 この花火と横瀬町の三菱マテリアル秩父工場の構図は、6月に同町内の寺坂棚田を初めて見に行ったときに、もう出来上がりの絵として思いついていた(写真右・昇曲付八重散華芯紅煌星 埼玉県 根岸和弘)。この工場は秩父を舞台にしたアニメ映画作品の背景にも使われたくらい象徴的な建物だ。およそ横瀬町のどこからでも見えるのに違いない。
 とはいえ寺坂棚田から見て、夜祭りの花火は工場が一緒に写る方向には上がらず、90度くらい方向違いになる。それで棚田のイベント後、すぐにストリートビューで思い通りの構図になる場所をいくつか探して秩父夜祭りを楽しみにしてきた。ナビを頼りに午後2時頃に候補地のひとつにたどり着くとそこはストリートビューで見た以上の絶景で震えた。前日のお台場でストリートビューの錯覚を思い知ったのでどうなることかと思っていたが、そこは本当に素晴らしいポイントだった。それから快晴の空の元、焦がされながら小一時間別の候補地も含めて辺りをロケハンして回った。
 花火に対してポイントになる工場をどこに置くか?が構図の上で重要なのだが、無断で立ち入れる場所では他に良さそうな場所が無かった。そうした制約で今回は花火に対して左脇に配することになったが、それが結果として良かった。私が現着してから夕刻までなにごとも無かったのだが、16時を過ぎると工場の対になった2本の煙突双方から煙が出始めたのに気がついた。ああ、そういえば煙が出ていたなぁと、寺坂の時や過去の秩父夜祭りのことを思い出した。そして一時間ほどもすると稼働がMAX状態になったのか盛大に煙が排出され始めた。日曜も操業するんだ。ああこれは、煙の先が花火の盆にひっかかってしまうな。だから最初は対打ちの真ん中に工場を入れようかとも考えたのだが、煙を考えると風向きにもよるけどそれは難しかった。位置的に煙突の煙は絶対に花火の手前に来るからだ。それで結果論だが脇に退いてもらう構図になった。煙が出始めたのを見て最初もっと花火の位置を工場寄りにした位置に三脚を置いていたが離す方向に修正した。
 三脚まで50メートルくらいのところに車を駐めて、5時間ほど昼寝とかで待機。トイレと食事は徒歩10分足らずのコンビニを利用した。
 17時30分を過ぎるともうすっかり暗い。しかし工場は思ったほどには照明が灯らなかった。まぁそうだろうな。ライトアップしてどうする、というような建物だし。露光をかけても灯りがないものは写らない。仕方ないか、と思っていた。
 当初はまだ芸術花火開始まで間があるから、工場の入らない別のポイントに移動しようかとも考えた。写らないものを無理矢理入れてもなぁ。と打ち上げ方向を見て考えあぐねた。近くに駐めた車に戻ろうとしたら背後の山の稜線からちょうど月が昇り始めたのを見て閃いた。月光に照らされるじゃないか!工場のライトアップが足りない分月明かりに助けられるかも。この晩が満月なのは昨日のお台場でわかっていたが、後で知ったのはさらに「スーパームーン」だったこと。国立天文台によると、見かけ上で今年最小だった6月9日の満月と比べて1割以上大きく、約3割明るかったという。その月が昇るにつれ光度を増し、それは夜の一灯ライティング。月の威力は素晴らしい。武甲山はもちろん辺りの森の木々まで照らされているのがわかるほど浮び上がって見えた。さらに幸せなことに辺りにだれも居ず、まるでこの素晴らしい満月を独り占めしているような感覚だった。その後何度か月方向を見ると、流れ星を見ることもできた。
 移動するのは止めて当初のポイントで撮ることにした。花火までは約2キロメートル。工場に対してどこから打ち上がるかはタブレットのMAPアプリなどで厳密に調べてあるが、18時30分と45分あたりに上がる向かって右側(お旅所に近い側)の10号ポイントから打ち上がるのを見るのが一番正確にわかる。その時刻に10号が上がり、射出位置と、開花位置と高さが判明し(左側は推測)、それから細かく画角と構図を決めた。
 カメラは2台でメインは10号対打ちのみ。もう1台でスターマイン系を。メインは初参加のD850で、この晩が花火でのデビュー戦になった。しかし低温とやがてやってくる結露は初戦としては厳しい環境だった。
 南西の風向き予報だったが、居場所では東南東とか北方向の風だった。工場の煙も見た感じではほぼまっすぐ上に上がっている。しかし時間とともに羊山のスターマインや単発の煙が10号方向に低くたなびいて広がって行った。だから北成分の風だったのは間違いない。吐息もそれほど白くならず、冷え込みも緩いかと思われたが、次第にしんしんと冷えて来た。
 19時45分過ぎに日本芸術花火大会の対打ちがスタートした。開花位置も高さも計算通り。なにより冬空にゆっくりと凛として咲く10号はやはり素晴らしい佇まいだった。そして距離があるため相当遅れて辺りに轟く炸裂音もまた山間に反響してびっくりするほど大きかった。スターマイン系はそれが発する煙に埋没していく感じですっきり見えなかった。10号対打ちもそのスターマインの煙が低く伸びて、曲導がその煙の層を通過してその上で開く、という感じだった。
 カメラを野外に出して1時間以上なんともなかったので結露は大丈夫かな、と思ったら日中から出しっ放しの三脚などがもうしっとり濡れていていた。速攻メイン側には結露対策を施した。最近購入したモバイルバッテリーを電源にレンズを暖めるというヒーターで「こんなものが効果があるのか」と思いながら使ったわけだが「抜群の効果」だった。
 サブの方には対策しなかったら(対策グッズは2つあったがやらない方と比較したかった)芸術花火の後半あたりではもうレンズ面が真っ白になっていた。その後は何度拭いてもすぐ曇って駄目だった。メインはボディは濡れていたがレンズ面だけはまったく結露せず。「使えるじゃん!」。
 さすがに進行アナウンスも聞こえないので、打ち上げ順プログラムとカンが頼りの撮影。芸術協会の対打ちは5発ずつセットになって5発ごとにインターバルが入る進行。それぞれの出だしは打ち上がるまでわからない。そこは経験で問題なかった。
 花火が上がり始めたので、付近の住民が4〜5名、家から出て来たが、後は誰も居ない静かな観覧だった。きっと間際になると車で大勢来るのだろうと思っていたが、写真を撮るような見物人は他に誰も居なかった。 遅くなっての帰りの足のこともあり今回は車で来ているが、観覧場所は横瀬駅から徒歩でも可能な距離である。
 20時30分くらいで予定より早く、各町スターマインが始まったようなので(つまり日本芸術花火大会のプログラムは終了)、そこで引き上げることにした。なにしろ日曜の晩なので翌日の仕事を考えると致し方ない。車は真っ白に結露していて、フロントグラスが見えるようになるまで発進できなかった。車のボディに響くようなスターマインの音を背にして羊山を後にした。
 この日はいくつかの条件が重なってこの作品を得ることが出来た。素晴らしい花火もさることながら、このポイントを見いだしたこと。工場の煙があまり盆に影響しなかったこと。スーパームーンの満月に順光で照らされたこと。再び同じ場所で撮っても二度と夜祭りの晩にスーパームーンの満月を呼び寄せることは出来ないだろうし。

    

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