花火野郎の観覧日記2017
観覧日記19 8/26
第91回 全国花火競技大会 大曲の花火
秋田県・大仙市
初めて車で出かける。新幹線で行くのと比べてトータル3,000円くらい安い、その程度の違いに過ぎないが当日の宿が取れなかったのでそのまま帰れるか眠れる車を選んだ次第。赤川と同様に前日は走るだけの日。幸いに前日のホテルは確保できた。往きはたどり着くだけで精一杯なのと、休憩の度に気になるのは当日の天気と風向きだけ。それで現地の木曜からの雨と増水についてはまったく知らないままに現地入りした。実際に雄物川を渡って周辺が冠水しているのを見て、増水したのか!と事態が飲み込めた。大会会場は周囲の目隠しのせいで車で通りかかるくらいでは様子がわからなかった。朝6時30分に発ってホテル着が午後2時過ぎ。
予報では西風だったので、到着時に会場裏手に2箇所ほど場所取りを済ませておく。ひとつは定番の地。一時は観覧不可になっていた裏手農道の500メートルラインも観覧可能になっているので、もうひとつそこも確保。地元の人が場所取りしながら「本当に明日開催できるのか?」と言っていたので初めてそれほどの事態なのかと気が付いた。
赤川の経験で、ホテルに入る前に駅周辺の目抜き通りでスタンドを探し、早々に給油しておく。
部屋のテレビではちょうど観覧場所、打ち上げ場所共に冠水したニュースを流していたのでずっと見入っていた。昼ごろまでに水は引いたらしいが、その後の始末が尋常じゃない。浸かったコンパネの桟敷席の汚泥を水とデッキブラシで洗い流し、消毒をするというスタッフが映し出され、頭が下がるとともに、明日は絶対に開催にこぎ着けるという一丸となった全員の気迫が伝わってくるようだった。
私はかつて豪雨と増水によって、雄物川が溢れ、順延になった過去(1995年)の大曲花火を体験している。その時は前日深夜の豪雨のせいで翌朝増水。開催当日の花火会場は正午を過ぎてもこちらの堤防から対岸の堤防まで川になっているという有様。桟敷も流失、順延を余儀なくされた。だから本当に開催できるのか、当時とは比較にならないほど巨大になった桟敷席の清掃など終わるのか?このまま順延でもおかしくない、と半ばあきらめていた。開催の可否最終判断は翌朝6時と公表された。
天気も気になるが、初の車での帰還だからどこに車を置いて、どのルートから帰るのが賢明か早いかを悩んだ。今回は大曲が抽選で有料席を売り始めて、実に初めて私は自力で参加してC席が当選したのだ。だから風によってメインでの観覧も可能。しかしどの予報からも観覧場所は裏になりそうだった。その方が楽だから裏の撮影場所近くに車を置きたかったが、台数の限られた主催指定駐車場に確実に入れられるか判らなかった(実際は26日深夜のうちに到着した車がほとんど確保してしまい、夜が空けてからは無理だった)。朝になってみると予約駐車場なのだろうか、前日とは違ってそこら中が駐車場になっていた。しかもテントやタープがとっくに張られていたので、夜中に着いてそういう支度も済ませたということ。そして大会提供が終わって以降、近くの国道は花火大会が終わってないのにもう渋滞していたから、そこに車を運ばなくてよかった。周りで観覧の車で来ている知り合いの愛好家氏たちは、それを見越して朝まで車で寝て渋滞が解消してから出発するという。
結論は、車は駅近くの有料駐車場に入れ、大曲駅東側から国道を通って横手ICを目指すというもの。車で何度も来ているという愛好家に帰りルートについて教えて貰ったところ、秋田道はどうしても渋滞らしい。もし東北中央道が全線開通していたら大分解消されると思うのだが。ホテルは前夜分しか確保出来てないので翌日は駐車し続けられない。で夜8時頃に、ホテルの駐車場から駅近くの駐車場に車を移動させておく。そしてホテルから撮影場所、そこから車までは地図アプリで最短距離ルートを割り出して全て徒歩とした。往きに約4.3キロ、帰りは約5キロメートルの歩き。帰りは下流の大曲橋を通るルート。
ホテルからの夕焼けは綺麗だった。明日の風向きはどうなるだろう?夕食後、ホテル近くの丸子川での前夜祭花火を鑑賞。木曜日も打ち上げる予定だったらしいが雨で中止になったので、木曜分も合わせてかなり多めの打ち上げだった。
翌開催日の早朝午前6時に、合図雷とともに、予定通りの開催宣言が正式に発表された。今回、大雨がかつて順延に追い込まれた時のように金曜の晩だったら開催は無理だったと思う。
ホテルを発ってゆっくり歩き、途中姫神橋から、会場全体や打ち上げ場所を遠望。観覧会場は水没が無かったかのように整備され、綺麗な佇まいだった。今年から無料で見られる場所は無くなったわけだが、自由観覧エリアについては、1,000円の整備協力費が必須だったのが、冠水のために無料扱いに変更された。
撮影場所到着は午前8時台。ホテルから裏手に直行したわけだ。これまで20回以上の観覧で風向きによる裏側観覧は3〜4回。たいていはどっちにしようか悩んで対岸に渡ったが、今回は一度もメイン会場に寄らずに直接やってきた。取っておいた場所に三脚を据えた後は、近くのコンビニに朝飯と一日分の飲料を買い出し。そしてついでにまだ9時だし、早い時間だからいいだろうと、朝ビール開始。で、木陰で2時間ほど爆睡してしまった。良い風と良い木陰があったせいで、長い待ち時間も快適だった。
会場のアナウンスは聞こえるものの、何を言っているか聞き取れるほどではない場所。だから進行把握はFMはなびに頼った。
車にはフル装備で撮影機材を積んできたが、長く歩くことを考え三脚1本、載せるカメラも1台きり(予備は有り)と削って余分は車に残した。カメラバッグと三脚、椅子だけをカートで運んだ。もちろん着替えや雨具などを入れたデイパックも装備。
昨日に引き続いて夕焼けが綺麗で、その色が消える頃に昼花火競技。昼花火の細部を見るには間合いが遠かったが用意したレンズも望遠系が無かったのでそれは我慢。撮影は座った状態でやることにした、画角が50ミリから上だったので僅かなブレも出したくなく、三脚の脚を伸ばさないで撮った。
夜の部になるが、本割りの直前、7月の豪雨で被災した市民のために復興を祈る激励花火が打ち上げられた。プログラムには無い出し物で、10号など30発が打ち上げられた。ついでナイアガラとオープニングだが、ナイアガラのみ例年の500メートルから700メートルに幅が拡げられた。そうしていつもの大曲の花火が始まった。次第に弱まり無風になる予報は良い方向に外れ、充分な西風が最後まで吹き続けてくれた。そのせいもあって日中は心地よかったが日没と共に寒くなってきた。
プログラムも半ば、隣の誰かが「良い風ですねぇ」と声をかける。そうですね、と応えて、ふと空を仰ぎ目が釘付けとなった。拡がるのは大会のエンディングで使われる曲のタイトルと同じ、見事な「満天の星」だった。あまりに凄く、美しく、そのまま泣きそうになった。近年これほどの星空にお目に掛かっていなかった。辺りに明るい照明も無いせいで、うっすらとミルキーウェイさえ見える天(そら)に、しばらく目を奪われ、その後も花火の合間に何度も何度も天をぐるぐると見上げた。知った星座が直ぐには見つからないほどの星の数。
大曲に通い始めて四半世紀。こんな降るような星空はそれまで気がつかなかったのか、見たことがなかったのか順風と快晴の満天の星空。こんな奇跡が同時に経験できるなんて一度も無かった気がする。少し肌寒いけれど、なんという素晴らしい晩。大曲に対して何も思い残すことが無いほどの一日だった。もちろん花火は最高だけれど、最高を味わうには、活かされるコンディションも必要。
FMはなびで、この感じはそろそろ大会提供じゃないですか、とまるで初めから判っているような解説が流れたがその通り22番の後に大会提供となった。残念ながらその打ち上げ時間中だけ、風向きがおかしくなって煙が溜まってしまったが、終わるとまた西からの良風に戻った。メインで観覧していた仲間によれば、今年は大会提供後に一斉に団体が席を立つ、というようなことにならなかったらしい。
無事終了。辺りも拍手に包まれた。対岸では、こちらの花火師がトーチを用意する前から、桟敷席で一斉に無数のLEDライトが乱舞するのが見えて煌びやかで感極まった。打ち上げ現場の花火師側は全員が赤いトーチを振り、観客はさまざまな色の灯りを振って応える。この大曲ならではの花火師との交流エンディングに参加するためにカラフルなコンサートライトを準備し、最後まで席を立たない人が増えているのだという。例年以上に中身の濃い出品で花火はいずれも素晴らしかった。しかしそれ以上に素晴らしい働きをしたのは大会を支える無数のスタッフだろう。ニュースで流れたが、水をくみ出し、桟敷を洗い流し、消毒を施すという賢明な作業はなんとか開催にこぎ着け、お客をもてなしたいというスタッフ共通の願いからだったに違いない。
片付けて歩き出して気がついた。道路脇の歩道を歩く。もう国道は上下とも帰宅の車がびっしり渋滞していた。そのヘッドライトに照らされて、自分が吐き出す息がもう真っ白だった。それほど気温が下がっていたのか。秋そのものを感じていた。やはり大曲と共に夏は終わる。機材込みで5キロメートルも歩くには涼しい方が楽だが、それでも約1時間かけて車にたどり着くと、汗びっしょりだった。積んでおいた乾いた衣類に着替えてから車を出す。
大曲ICに向かうメインストリートではないがやはり渋滞。もう23時を過ぎていた。一日の疲れ、最後の歩き疲れもあったし、渋滞はずっと先まで続いてそうだ。赤川で懲りていたので、途中にあった道の駅に突っ込んで早々に寝ることにした。そこは窓に目隠しをして、仮眠じゃなくすでに朝までの「本気寝」モードの車ばかり。私が入った時はまだ少し余裕があったが、その後3時間ほど眠って午前2時過ぎに目が覚めると、もう駐車区画以外もみっちり満杯状態になっていた。おそらく200台以上は就寝中。目が覚めたのは多分寒気がしたからで、フリースの毛布を使ったが、シュラフがないと熟睡は無理だなぁ。もう東北は夜の気温も低かった。
その道の駅上空も満天の星空(写真上)。ちょうど到着時に車を降りて眺め始めた時に大きな流れ星に遭遇できて驚いた。普通、道の駅というと、遅くても20時には建物本体の営業は終わり、その後は駐車場は使えるもののトイレと自販機以外は真っ暗、という印象だがここは違っていた。おそらく毎年同じ渋滞の光景が繰り広げられるのだろう。だから午前2時過ぎというに、こうした渋滞からの立ち寄り客、休憩・就寝客を見越して、土産物を販売するなど出店が夜通し営業しているようだった。
渋滞していた国道方向を見ると流れていたので、そこで朝を待たずに車を出すことにした。横手ICまでほぼ順調に走り、それから秋田道に乗るが、湯田あたりで渋滞表示が出ていたものの、実際に通過するとそれは無く、北上JCまで順調に走れた。あとは東北道で眠くなっては仮眠を3度ほど繰り返し、午前10時に自宅着。往復で1,050キロメートル。また最長不倒の距離を伸ばした格好。
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