花火撮影テクニック
探求編(研究編)

探求編目次
  
●はじめに
●これまで花火の写真と思いこまれていたものは?
●花火の知識と鑑賞眼
●花火ごとの撮影ポイント
・夜物−割物花火

・スターマイン
・張り物仕掛け
・水中花火・水上花火
・二尺玉〜四尺玉などの大玉
●「耳」が大切なアンテナ
●夜景と花火をバランスさせるには
●花火の色ごとの露光量=絞りの変化
●撮影に適したディスタンスをとる
●花火撮影のためのレンズ構成
●規模が予測できない場合は広角めで撮る。
●花火撮影は「受け身」ではない。
●花火の知識と「鑑賞眼」がなにより大切
●風の流れや気象の変化をつかみ味方にする
●カメラ首振りのナンセンス
●2眼レフはベストか?肉眼で見ながら撮る
●ロケハンのポイント
データの記録
●作品への昇華
●おしまいに
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 撮影に適したディスタンスをとる
  
 花火には観賞或いは撮影するに適したディスタンス(間合い、といったところでしょうか)があります。このディスタンスはすなわち打ち上げ地点から観賞地点までの直線距離のことです。私自身はこの撮影・観覧のためにとる間合い=どれくらい離れた場所から観るか=を以下の3つに分けています。

1.近距離・SHORT DISTANCE  立ち入り禁止区域の外〜350メートル
2.中距離・MIDDLE DISTANCE 400〜600メートル
3.長距離・LONG DISTANCE  700〜1000メートル


 なかでも500メートル前後の辺りが最も花火の観覧・撮影に適しているということができます。これくらいの距離をおいた時、花火全体の形が最も自然に見え、また花火の上がっている高さも良く分かります。観賞するに相応しい間合いといえます。 
 撮影の上では中距離程度のディスタンスをとったとき、使用レンズはほぼ35〜70ミリくらいの範囲に収まり、この範囲で10号玉までのあらゆる打ち上げにほぼ対応できることになります。
  
 花火撮影のためのレンズ構成
  
 一般に正統的な花火撮影における使用レンズは、50〜60ミリの標準レンズから下の広角側であることが多くなります。もしズームレンズをお持ちでない場合、またブローニー以上のフイルムサイズの場合には広角側に焦点距離を充実させたレンズ群構成をすると無駄がないでしょう。
 したがって上記の各距離に対応したレンズ選びは以下のような目安となります。
  
1.近距離=24〜28ミリ
2.中距離=35〜70ミリ
3.長距離=50〜100ミリ+100ミリ以上の望遠

  
 もちろんこれは部分アップなどをせず、下から(打ち上げ地点や夜景など)花火全体を撮影する場合です。
 もともと撮影に必要なレンズの焦点距離は、打ち上げ場所からの距離と、打ち上がる玉の号数によって単純に割り出されるものではありません。実際の打ち上げ空間には高さだけでなく「幅」も「奥行き」もあります。打ち上がったときどれくらいの焦点距離が必要になってくるかは、つねに花火の展開に合わせて臨機応変に対応しなければなりません。
   
 規模が予測できない場合は広角めで撮る
   
 一度でも撮影を経験した花火大会や花火でなければ、その規模が予測できません(ここでいう規模とは、打ち上げの玉数ではなく、打ち上げの空間規模のことです)。この規模については開催場所や打ち上げ場所が変わらない限り、スケールダウンすることはあっても拡大することはありません。したがって経験済みの花火大会なら比較的適正な画角を決められることになります。
 次のような場合には必要と予想される画角より広角側のレンズを使用し、必要に応じてトリミングをするとよいでしょう。
  
・初めて撮影する花火大会。
・既知の花火大会であっても、初めて撮る撮影場所
・新作の花火の撮影
・既知の花火大会であっても、毎年テーマやデザインの変わる打ち上げ。

   
 これは特に単体レンズ使用の場合のいわば保険といえます。つまり万一のひどいフレームアウトを避けるため、安全上予想される画角より広角側のレンズをあえて選ぶのです。単体レンズの打ち上げ途中での交換はズームほど簡単ではないからです。
 ズームの場合は、予め考えられる焦点距離より少し広角側にセットして打ち上げを待つことになります。当然ズームの方がその後の適応力は優れています。
   
 花火撮影は「受け身」ではない
  
 花火は受け身の撮影ではあります。花火大会などで打ち上がっている花火は、その内容はもちろん、点火のタイミングにいたるまで撮影者自身とは直接関係も連絡もないのが普通です。一般的にはこの両者の間には何の疎通もありません。従って撮影者本人が明確に作品、または自身の写真を撮ることに積極的でなければ、だらだら撮ってそれで終りということの繰り返しになります。
 受け身の撮影ではあるが、例えば次に来る花火がどんなものか、この後どうなるのか、を知った上で撮るのと、行き当たりばったりで撮るのとは大変な違いがあります。花火撮影は実際は「次」と「花火そのもの」を知った上での「待ちかまえて撮る」撮影術なのです。同時に一方通行の撮影ではなく、被写体である花火へ積極的に迫る攻めの撮影術でもあります。そのためには花火大会ごとに用意されるプログラムを入手した上で、撮影プランをたてるのは必須といえましょう。
   
 花火の知識と「鑑賞眼」がなにより大切
  
 一般に、鉄道、風景、生物、スポーツなどテーマを決めて撮影している方の多くは、追い求めている被写体について相応に詳しい知識をもちあわせているものです。ところが花火の場合、カメラを離れて被写体である花火について写真抜きで語れる人はどれほどいるでしょうか?
 より花火の見せ場、見せたいものを速やかにつかみ取るには場数を踏んだ撮影テクニックもさることながら、花火そのものへの知識と理解が必要なのはいうまでもありませんし、経験を積んで花火を「観賞する心」を養わなければなりません。
 花火を花火作家の作品ととらえ、それを観賞し理解する「心」が無くては、結局その花火の「良さ」も永遠に解らないままです。とくに花火を単なる夏のイメージとして、あるいは素材としてとらえるならともかく、皆さんが花火の本質的な何か(文化的、芸術的、伝統的な美やスケール感、花火の存在意義や効果など)を撮影しようとされているならこのことはとくに大切になってきます。
 こうした花火そのものの「何か」や、自身の花火への熱狂の心がその作品に織り込まれ、第三者に、つまり作品を観る側にひとつのメッセージとして伝わった時、それははじめて古いこれまでの花火風景写真から真の「花火写真」にグレードアップするのです。従来の花火の写っている様々な写真は、花火について何も知らなくても良かったし、そこそこ写ったわけです。しかしそれではそこに写った花火から感銘を受ける写真にはなりえないのです。
   
 風の流れや気象の変化をつかみ味方にする
  
 ロケハンで大切なのは風上に廻ることでした。風向きや、その打ち上げ場所の何らかのへ地形的な要因による特殊な風の流れを知るには、「お知らせ花火」を利用するのが一般的です。これは夜の本番の大会が始まるまで繰り返し打ち上げられる音物やスモークを使った昼物花火のことです。他にも旗や木々の動き、煙突からの煙の動きなど風の流れを探る方法はたくさんあります。
 お知らせ花火を利用するのは、なんといっても本番の打ち上げとほぼ同じ場所から打ち上げるためです。これによって本番時のコンディションの予測がつきやすいのです。
 注意するのは、地上付近、すなわち撮影者である自分の居る場所や筒場の位置と、上空の玉が開花する高さとでは風向きが異なることがある、という点でしょう。筒から吹き出す煙や仕掛けの煙はうまい方向に流れるのに、肝心の上空で開いた玉が発する煙が自分の方へ流れてくる、というのも良くある例です。
 もちろん風の流れを掴むのは容易ではありません。現場へ到着した時刻と、大会が始まる夜とではまったく正反対の風向きになってしまったり、風が全く止んでしまうことも経験することでしょう。風速や風向も常に一定ではないことを考えておかなければなりません。煙やモヤにじゃまされることのないすっきりとした花火映像をモノにするためには、本番中はもちろんのこと、始まる前から風の動きを常に気にしている必要があるでしょう。
   
 カメラ首振りの適と不適
  
花火をバランスよく散らす

 露光の度に三脚のヘッドを動かしてカメラのアングルを変える(画面上で花火の写る場所を変える)という多重露光はよくみられる技法です。空で花開く花火だけを撮る場合には妥当で必要なテクニックといえましょう。
 その目的は単発の花火を画面上の好みの位置に散らし、作画をしていくこと、画面全体を充実させることにあります。これによって、「同一の打ち上げ筒または同一地点の打ち上げ筒から射出される同じ号数の玉は、夜空の同じ位置に重なりやすい」という花火の欠点を避けることができます。
 もしアングルを変えなければ、フイルム上の同じ場所に何発も玉が重なって、花火の形がわからなくなり、さらに露出オーバーになりやすいからです。スターマインなどでは打ち上げ筒の数が多いので比較的玉が散ってくれますが、単発打ち上げで花火だけを撮影するときはアングルを変えてみるのも新しい発見があるでしょう。
 加えて、アングルを変えながら、さらにズームなどで玉の大きさも意識的に変える、というのもリズム感のある変化に富んだ絵造りが可能となるテクニックです。この場合はとくに、花火を画面内にどう配分するかという撮影者のバランス感覚が重要になってきます。

夜景などを入れる場合のくだらないナンセンステクニック

 しかし地上の夜景などを花火と同時にフレーミングした場合にはカメラを振る(主に左右に角度を変えて多重露光する)のはお勧めできません。こうして撮られた写真は、花火が写っている写真の中では最も陳腐で滑稽なお笑いものです。なぜならカメラを動かして露光した数だけ同じ夜景が何度も重なって写るからです。花火は露光ごとに形態や色が変わるかもしれませんが、なにか特徴のある建物や広告塔、街路灯、屋形船などがあった場合、同じものが一画面にいくつも(カメラを振った回数分)同時に写ることになります。これを「変なこと」と思う感覚が無ければ探求もここまでです。
 どうしていけないのか?何が変なのか?と思った方にどのように説明したらよいのでしょう? アマチュアの方には、そのテクニックを学んだ、カメラの先輩やカメラ雑誌などが悪かったのだと同情しましょう。プロであるなら仕事で写真を撮るためのセンスを持ち合わせていないことをお気の毒だと申し上げるしかないでしょう。
 これは撮影者の写真を撮るのに必要な根本的な「センス」の良し悪し(有る無し)の問題なのですから。私自身はこうした写真をまったくかつ、いっさい評価しません。花火写真コンテストなどでも(私が審査員の場合は)真っ先に無条件でハネてしまう写真です。誰でも写真を楽しむ権利はありますが、よい作品を撮るには美意識やセンスを持ち合わせていることが必要なのです。
 こうしたくだらない、安っぽいテクニックはおそらくは、カメラ雑誌の花火の撮り方特集などで広まったのだと思います。花火のことなどなにも知らない書き手がもっともらしいカメラテクニックとして得意になって掲載したものでしょう。
 こういったことをどうして得意満面にやる人がいるのか理解できないのですが推定される撮影の狙いは、
 
・打ち上げ場所が一か所しかなく、たいへん画面構成上物足りない(寂しい)ので、打ち上げ場所を増やして賑やかにする。
・夜景をダブらせることで画面下方が賑やかになる。
 
などがあげられるのではないかと思います。事実こうした目的でこうした撮り方を促すような方法論が過去何度もカメラ誌の記事として紹介されています。
 たとえ打ち上げ場所が一か所しかなくても、その部分をひっぱって充実した画面作りができるはずですし、賑やかにしたいなら賑やかに打ち上げる場所で撮るべきなのではと思います。
  
 2眼レフはベストか?肉眼で見ながら撮る
  
 花火を撮るには2眼レフ、とはまさに古典中の古典。またレンジファインダー式カメラも同様です(新しいところではマミヤ7など)。その最大の選択理由は「露光中もファインダーが有効である」という点につき、またこれしかありません。では露光中にも「写りつつある画像を確認できる」ことはそんなに重要なのでしょうか?否。花火で用いられる理由には、「夜空のどこらへんに開くかわからないから」といったものがあります。そんなものはしばらく打ち上げを見てれば誰にでもわかってきます。花火撮影のベテランならばロケハンしているのですから、何処から打ち出され、何号の玉は高度はこれくらい、拡がりはこれくらい、と了解済みのことです。私が否定的なのは、「ファインダーを覗きっぱなしになってしまう、という点です。それにファインダー内で見た物は既に写ってしまっているわけですから消すこともできません。ファインダーはまさにフレーミングなどをちょっと「確認」できればいいわけです。それより肉眼で花火を鑑賞しましょう。被写体を見極める眼はその方が確かに磨かれると思います。
   
 ロケハンのポイント
  
 ロケハンとその結果としての「撮影場所の決定」は重要なことです。なぜならその日の絵柄やフレーミングがそのことで同時に決定してしまうからです。たいていの場合撮影場所の良し悪しはそのまま作品の良し悪しに直接に結びついてきます。その場から見たアングルが「夜になった時」を想定して慎重に撮影場所を選ばなければなりません。
 場所選びで重要なのはもちろん風向きです。次に大切なのが花火のセッティング状況の判断です。つまり花火全体がどこにどんな具合にならべられているか、すなわちどこから打ち上がるか?です。そしてそこからの撮影距離はどれくらいか?これらの判断です。もちろん絵づくりの上からは花火だけがあるわけではありません。花火と同時に写し込む何かもロケハン時に同時に考慮しなければならないでしょう。
 場所が決まったなら事前にだいたいの絵柄をイメージして、レンズワークなどを考えておくと本番でもスムースに撮り進められるでしょう。
  
 データの記録
  
 データを残すことは重要なことです。しかし単なる撮影データだけでは不十分。必要なのは「絞り」と「露光時間」だけでなく、使用レンズ、筒場からのディスタンス、その日の風向きを含む気象変化の具合、花火内容の評価、撮影中の印象と撮影結果の照合などが大切になってきます。その上で反省点、と次回への目標をはっきりさせておくことが良い「撮り」につながります。
 もちろん風景などの撮影に比べれば、撮影中にこまめに記録していくのは難しいです。帰宅後などでもかまいませんが、印象に残った花火や、その日試みた特別な操作や、露光などは必ず記録しておきたいものです。
  
 作品への昇華
  
 印刷用に使う、という目的でなければ、ネガであれポジであれ、プリントをとるのが一般的な後処理と鑑賞法です。ネガであるならなおさらプリントするまでは未完成です。もちろんそれ以前にいくつかの銘柄のフイルムをテストし、実際の花火の色と比較してチェックし、好みの発色のものを見出すことも大切です。
 プリントに気を配ることは大切です。特にネガではプリントしなければ完成ではないからです。コンテストなどで似たような作品が寄せられた場合、プリントの良し悪しは致命傷になります。これはそれなりのところに(プロラボとか)高いプリントを発注するということでなく(高級な印画紙を使うだけ)、撮影者が発色などに最後まで気を使うということです。焼きっぱなしではなく、テストピースを焼いてもらって判断しても良いでしょう。プリント時に好みや発色の指示をちゃんとする、ということです。
 自宅で高品質なインクジェット印刷が得られるデジタルカメラの時代になって、撮り手は言い訳ができなくなっています。フィルムの時代ならプリントの良し悪しはラボ任せでしたが、現在はプリントの出来や色管理までが撮影者の守備範囲になっています。ところが発色などに気を使うといってもネガやデジタルからのプリントの場合は、発色のよすがとなる見本(実際はどんな色だったか)がありませんから、ラボに依頼するにしても自家プリントするにしても、色味の基本が人それぞれで、しかも主観的になりがちです。たとえば、もっと鮮やかな赤だった、こんなにオーバーだったはずはない、とプリント時に自分の中の架空の写りと、発色を追求したあげくが、記憶色が理想色となり花火としては現実にはありえない色でプリントされたりします。しかも撮った本人はそのことに気が付かず、それが自分の見た物だと錯覚するでしょう。できればポジとデジタルとで同じ花火を同時に撮ってその差異を把握しておくと良いでしょう。
 それでも試しに大伸ばし(半切以上、A3ノビとか)をしてみると、自分の作品の意外な立派さに感激するでしょう。もちろん「アラ」も拡大しますが。なにより花火の写真は大きくして見る物なのです。
   
 おしまいに
   
 これまで私が自分の花火写真にひたすら求めていたのは、「忠実さ」であったように思う。すなわち自分が肉眼で見た花火に近づけようと努力し、花火師が考えたであろう見たままの色を再現することに夢中であった。しかし「実際の花火と写真のそれは違う」との花火師の一言が私のそんな姿勢を解き放ってくれた。私の中に新たな展開を呼び起こした。
 自分がとらえた花火はまさにオリジナルであったのだ。そこにはいつのまにか自分だけの色やスタイル、フレーミング、トリミング、ディスタンスが築かれていたのだった。私は自分の理想とする花火映像を、自分の理想の「撮り」を追求していけばいいのだということに気づいたのだった。
 私は自分の写真と実際の花火の中で何度も新たに花火の何たるかに出会う。やはりなんとも奥の深い世界である。江戸の昔から多くの作り手が創意工夫してきた伝統は、簡単にはその神髄を掴ませてくれないようである。

小野里公成 謹製
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