情報誌の花火大会特集の変遷と考察花火特集の衰退期〜終焉期まで
2000年代新世紀の情報誌は、これまでの流れを踏まえた上で、コラボレーション的でより規模の大きい企画担ってきています。その号のレギュラーページ(映画やテレビのスケジュールなど)以外の大部分のページを割いて、花火とその関連記事で一大特集号となっています。
「アフター花火」などという言葉も私や「日本の花火」ホームページが考案し使い始めたものですが、そうした言い回しもポピュラーに情報誌では使われるようになって久しくなります。すなわち通常の花火特集を組み、開催地域のアフター花火のお店やホテルといったデート先、立ち寄り先をより大がかりに展開している情報誌が増えて、それが一般的となってきました。これまでもドッキング記事として一般的だった、浴衣特集を含めた「花火の日の装い、おしゃれ、メーク」といった女性をターゲットとした記事も、男女共用の情報誌としては欠かせないようです。
花火を見に行くことの情報は出尽くしてしまったので、「花火が始まるまでどうするか?観た後どうするか?どこへ行くか」に相当なウェイトがかかってきている状況といえるでしょう。
前の年に次の年のための取材を堅固にやっておく、というのも各地域版の情報誌で当たり前になっています。2001年度東海ウォーカーでは、東海地域の3箇所の代表的な花火大会で、時間を追って大量の写真で実施状況を見せる、という驚くべき前年取材を掲載していました。
そして花火特集は衰退していく
そして可もなく不可もなく過ぎてきた2000年代でしたが、2006年度はひとつの節目となるだろうと思いました。
もとよりインターネットの普及で書籍や雑誌の売り上げに陰りが見え始めていましたが(情報誌そのものもWebで本誌と同様な企画をするものだから尚更買う必要が無くなっていった)、この年の花火大会特集号は各誌こぞって質が悪く出来上がっていました。およそ花火特集号としては最低ランクの出来映えだったと思います。各誌とももはや花火大会の詳細情報よりも、それに先駆けてシティ情報誌あがりの雑誌は(Walker、ぴあ、一週間系)花火の見えるレストランやバーなどとの予約席リザーブ企画、旅行情報誌系(るるぶじゃぱん、じゃらん)では花火の見えるホテルや旅館との予約席リザーブ企画を前面に出しています。
そんなリザーブ席や部屋を確保できるのは読者全員であるわけでもなく、 花火愛好家にとって、日程情報を知りたい一般読者にとって「どうでもいい」企画であることに気がつかないのでしょうか。
質が悪いのは、相変わらず取材だけの主催者発表の記事で間違いも多く、執筆者も実は花火のことなどなにも理解しているわけでもない。相変わらずの総数何万発という玉数企画にはいい加減呆れるばかりです。
ぴあ系では唯一秋田のNPO法人が発給する地域資格である「花火鑑賞士」を持つ花火愛好家を登場、語らせている点は好感が持てる、しかしこれとても資格者への興味や豊富のインタビュー記事に留まり、資格者を起用しての企画作りや紙面造りをしているわけではないので、単なる埋め記事でありなんの貢献をしているわけではないのか残念です。また資格者といっても、資格マニアの類も混ざって居るでしょう。資格を得てからもコンスタントに多くの花火大会を観覧し続ける真の愛好家がどれほど居るのか興味深いものです。
各誌ともいっそうに金のかかる「まともな花火写真」を使わなくなっており、観光協会などからの借りポジや編集部出入りの何でも撮るカメラマンに任せたりとそれらしい写真が入っていればどうでもいい程度まで落ちています。
しかしそれも無理からぬこと。売り上げが落ちているのである花火特集号が一年の内でかなりセールスする号とはいえ、もうそれほど情報誌が売れていないのでしょう。ですから企画にかける費用も確実に少なくなっていることでしょう。依頼された編集プロダクションなども自社の利益を確保するには、費用のかかる有料の花火写真など使っていられないのです。
だいたいWebで本誌と同様な花火日程表を花火情報サイトの完全なる後追いと真似で公開していることを考えれば、そちらはただで閲覧できるのですから、お金を出して情報誌を買う意味がある時代なのかと各出版社に問いたいものです。
残念ながら情報誌は「衰退」の一途を辿っているように思えてなりません。
2006年6月。交通公社=現在のるるぶじゃぱん=JTB出版局のるるぶじゃぱんが9月をもって休刊となりました。これに前後してリクルートのABroadが休刊になります。いずれも他社に敗れた、というよりはネット社会に出版物が敗れたことの象徴的な出来事と映ります。るるぶはとくに女性対象旅行関係月刊誌として誕生し、 ABroadもまた旅行販売を扱う情報誌でした。しかしいまやパック旅行ですら巷の旅行会社のパンフレットで充分、検索も実際の予約までネットで居ながらにしてできる時代になっていたのです。
2007年。こと花火情報に関しては、冊子の情報誌は静かに役割を終えようとしているのではないか?と強く感じられました。
この年、初めて6月第一週に、メインである角川の東京WalKer。講談社の東京一周間が、主たる花火特集号を出さなかったのです。両社ともこの週の号に先駆けて、ずっと早く花火速報の号を出したり、花火の見えるホテルやレストラン予約プレゼントの号を出してしまっている、ということもありますが、各大会をより詳しく紹介する花火特集号はずっと6月第一週にリリースされてきた過去の経緯を考えれば奇異なことでした。
角川のWalKerに至っては、すでにWeb上にWalKerプラスという毎年花火情報だけを取り扱うサイトを展開させており、情報の新しさ、リアルタイムさからいっても印刷媒体の情報誌以上の役割を果たしています。
読者つまり一般の花火観覧客にとって、開催日、時間、アクセス以上の情報は一般に必要とされていません。今はむしろ花火大会前後の立ち寄り先やプレイスポットの情報の方が重要であるかもしれません。
それらをリアルタイムに供給できるのは現在はWebが全盛であり、同等以下の内容で有料しかも旧いとなれば、冊子の情報誌の役割はよほどのことがない限り相当に薄いと云わざるを得ません。
よほどのこと、というのは花火に関してそれなりの重厚な内容を掲載しているか、または冊子購入者ならではの特典(プレゼント系)がつくとかのニンジンで買わせるかです。それなりの内容は現在の情報誌にはもう期待できなくなっています。本や雑誌が売れない時代に、制作費、編集費はどんどん削減され、花火特集号の内容は薄く陳腐になっていくばかりだったからです。金を掛けず情報を集め、金を掛けず粗悪な花火写真を使わなければ、制作プロダクションの利益が出ません。それでまともな花火特集になるでしょうか?もう「ネットで充分」な時代になってしまっているのでしょう。金のかかる物を読ませ、買わせるには、相応の内容が伴っていなければなりません。しかし今の情報誌にそれがあるでしょうか?少なくとも、花火情報に関しては、私ども花火マニアからすれば「金をかけて買い集めるだけのメリット」は薄いといえます。
花火専門のホームページや花火を主催する側が正確で詳細な花火情報を発信するようになっている現在、「検索」しさえすれば、その大会の観覧希望者はもっとも確かな開催情報をつかむことができます。その時代に花火に詳しいわけでも好きなわけでもない編集スタッフが仕事として制作した花火情報が価値を持つことはないのです。
90年代にはどこよりも詳しく多くの花火情報を有していた情報誌は、いまや最もチープな最低限の開催情報しか提供できなくなっており、それが情報を伝達する媒体の変遷の結果であり、時代の流れなのでしょう。
2008年。情報誌花火特集の終焉期
2008年。およそ20年に及ぶ情報誌花火特集が終わりを、いやその雑誌・紙媒体による情報伝達が役目を終える時を迎えたのだ感じてなりません。
過去3年ほどはどの雑誌の花火特集もまったく内容的に振るわなくなっていました。提供されるのは個々の花火大会の日程内容など開催情報のみ、一覧のカレンダーをつけて終わり。めぼしい大きな大会についてはより詳しくページを割いた紹介をするといったもので、花火そのものに対する記述は皆無か少なくなっています。少し良心的な記述では、開催時元の住人に穴場情報などを取材したり、担当花火店、主催者、肩書だけの鑑賞士に話を聞いたりしていますがごく少数です。内容が薄いのはそもそも1999年のフライングに端を発しているとも言えます(花火特集の10年part1参照)。要するに、最低限の開催情報をのせ、公称打ち上げ発数を合算して何百万発という薄ら寒いタイトルをつけて早く店頭に並べた者勝ち。それで必要充分という発想と仕事で、その後の出版低迷による制作費削減でますます拍車がかかったといえます。
世の中の情報発信、収集の主役はインターネットに、そして情報端末はPC(パーソナルコンピュータ)から携帯電話に移りつつあります。まともな花火大会主催者は不確かな情報誌に頼り、“掲載して貰う”のではなく、自らホームページやブログ、携帯サイトを立ち上げ、管理し、正確で速い情報を提供するようになってきました。
その中でまるで自己崩壊をするように、情報誌の出版社はその情報誌のタイトルを冠したホームページを起こし、花火特集に至ってはその情報の主体である日程開催情報をホームページや携帯電話向けサイト上で提供するようになって久しくなります。
そうなれば、もう販売商品としての冊子媒体は終わりです。それらを「購入」してまで花火日程を追う必要はないわけです。
私が花火特集の終焉を確信したのは、2008年の6月発売の東京Walker誌13号でした。長らくの花火特集記事の盛衰に於いて、充実の礎となったのは同誌の花火特集記事であることを思えば感慨深いものです。6月第2週といえば、過去最盛期の花火特集では各誌が最も力を注ぐ旗艦号でした。
この時期の花火特集号は年間で最も売り上げを伸ばし、総力を挙げた重量級の記事が組まれる号でした。しかし2008年のそれは、「花火大会決定版」と表紙に謳っているものの実に見窄らしい無惨な内容といえます。ページ数も少なくかつての一冊の1/3から半分ほども使った大特集はもう見る影もありません。そして特集ページ内には「より詳しい情報がインターネットのサイトで見られます」と花火特集ウェブサイトへの導入を促し、雑誌はもうその程度の役割でしかなくなっているようでした。情報誌、出版社自ら、すでにインターネットに主力を置いていることを証明している、いや見限っているとさえ思えるのです。
毎年、多数の地域版を出してまで充実させてきた情報誌の花火特集、または花火情報専門の別冊すべてて衰退が色濃く感じられる年でした。ぴあ株式会社の「花火ぴあ」は花火情報だけで一冊になっているという点で特別で、メジャーなものではこの雑誌しかありません。これは2006年まで首都圏版、東海版、関西版の3つの地域タイプがありましたが、2007年は首都圏版、関西版、そして2008年に至ってはとうとう首都圏版だけになってしまいました。その首都圏版にしても花火ぴあが初めて出版された当初の2/3以下の厚さと内容になっています。
近年はますます記事の制作費用が掛けられなくなってきています。外注プロダクションへの制作費が抑えられた花火特集は最低限のことしかできません。我々プロ写真家への写真要請も減りました。どうしても調達できない写真だけ制作時間ぎりぎりになって渋々、しかも値切って借りにきます。無料か安くすむ主催観光協会などからの借り写真や、アマチュアの花火写真を使い、どんどんビジュアルが粗悪になっていくわけです。ネットの花火特集にいたっては毎年同じ写真データの使い回して費用も掛けていません。挙げ句の果ては、ウェブ読者からの花火の写真の無料投稿というかたちでビジュアルの不足を満たしているありさまです。金もかけず制作の努力もなにもしていないわけです。
この2008年、おそらく一番セールスしたのは「アクティブじゃらん7月号」ではないかと思います。200大会ほどを最低限の情報で掲載したにすぎない花火特集を含んだ号でしたが、売れた理由はその内容が良かったわけではなく、通常は300円以上のところ、一冊200円という破格の特別低価格号だったからと思います。
書籍や雑誌が売れない時代、その上で出版社自身が主役をインターネットに移せば、なにも情報を「購入」する必要がないことを奨めているわけであり、自爆行為としか思えません。
2008年になって原油や食原料が世界的に値上がりし、日本国内でもあらゆるモノ、公共料金全てが値上がりし生活を圧迫しています。節約の世の中となりました。私は家庭をもち子供に費用がかかるようになって、過去に真っ先に無駄な週刊誌、月刊誌、夕刊紙などの購入を止めました。書籍や雑誌が売れないのは、若い世代を中心に確かに活字離れもありましょう。彼等が書籍や雑誌の購入費用に充てるのは、月に2500円以下という2008年の調査結果があります。情報を得るにしても情報誌でなく携帯電話やウェブであり、他にお金をかけるものが増えたことも要因です。
買えない、買わない、さらには買う必要がない、買うつもりもないという指向になっていてもおかしくありません。買ってまで読むほどのメリットも無く、今後さらに情報誌は売れなくなっていくのではないかと懸念します。過去には全国の情報誌を買い集めていた私も、ネットで情報が得られ、かつそれぞれの特集記事が中味の薄いモノになってから収集をやめました。今は花火観覧に必要な情報はその花火大会自体の公式ホームページでより、正確に速く入手できるせいでもあります。不確かで遅く、出版後は修正の効かない印刷雑誌媒体の記事は、すでに用が足りなくなって買ってまでして読みたいほど価値見いだせなくなっているのです。
そうして花火特集の載る情報誌を買わなくなっていた私ですが、2008年度はいくつかの代表誌を買い求めました。
およそ20年にも及ぶ情報誌花火特集というひとつの物語を黎明期から見て、共に歩んできた私にとって、その物語が静かに終わりの時を迎えるのなら、結末をどうしても見届けていきたいと思っているからです。
2010年。情報誌そのものの終焉期へ
2010年3月24日。角川書店のWalker誌の追随対向誌として刊行された講談社の「TOKYO一週間(1997年創刊)」、「KANSAI一週間(1999年創刊)」両誌の6月8日発行号での休刊が発表されました。ピーク時の発行部数は両誌とも30万部を超えていたのですが、インターネットなどメディア環境の激変や読者のライフスタイルの変化に伴い、近年は共に約8万部まで落ち込んでいたといいます。あらゆるモノや流行が生まれ、栄え、廃れていくのは歴史の必然とはいえ、情報雑誌媒体の寿命が10余年とは虚しささえ感じてしまいます。
読者やその住まう社会の変化はもちろんですが、この考察でも触れているように、出版社自らが刊行している情報誌と同じ内容のウェブサイトを運営することは、その情報誌の自社否定だったのです。大手新聞社も契約部数、発行部数が減り、「若者の新聞離れ」と嘆く声が聞かれます。ネット上で主たる記事が読めてしまう現代、購読してのニュース取得は減っても仕方ないのでしょう。出版社はピークの発行部数を誇っていた頃ほど、情報誌の内容の充実にもう金を掛けられなくなっています。いきおい安い経費で生み出された冊子媒体の記事が、インターネット上で無料で仕入れることができる情報と比して品質、精度、速報性の点で凌いでいるとは言い難い時代といえるでしょう。
情報誌の花火特集とともに、いえ情報誌それ自体と長らく同じ社会で関わってきた私にとって、今年はついにその結末を見ることになりそうです。
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