近年と今後の注目花火

 菊や牡丹に代表される伝統的な日本の花火の世界にも常にニューフェースが登場しています。
 日本の花火は丸く開く、と書きましたが、その基本をふまえた上で、今度は丸く開く事にはこだわらないという発想から、花火作家達の新しい花火への挑戦により、素敵な花火が生まれています。
 蝶々や土星に始まり、たんぽぽ、ひまわり、コスモスなどの新しい花々や、いくつかにまとまった花弁を持つ「万華鏡」など、花火は変幻自在の形を持つようになってきました。こうした玉の構造の工夫だけでなく、ピンクやレモン色などの微妙な中間色や、ピカピカ光る「点滅物」など、中に込める星そのものも新規の色合いや変化が生み出されています。花火大会を構成する花火玉は年々バリエーション豊かになっているわけです。
 ことに平成から令和にかけての30余年、とりわけ2000年前後からの20年間はもっとも近年の花火玉や内包する星の製作技術、打ち上げ、演出の技術が進化した期間と言えるでしょう。
 こちらでは近年に考案され、スタンダードとなったエポックな花火を整理し、現在そしてこれからの花火シーンの流れをみていきましょう。花火作家の工夫と好奇心は、常に新規の趣向を求め続けているようです。
 
・平成から令和への30年間を代表する花火玉と技術
・万華鏡
・飛遊星、遊飛星、引先の遊泳星、引先蜂
・立体型物
・クロセット菊、クロセット千輪、クロセット星
・ジランドラス、UFO
・多重芯 三重芯(みえしん)四重芯(よえしん)五重芯(いつえしん)
・和火(わび)、古(いにしえ)の色の復活
・ハーフトーンの星
・妖精、天使の〜、ウンカ
・観る側の色を感じるセンスについて
・花火打ち上げ専用コンピュータの導入  
     
 平成から令和への30年間を代表する名花
  
 平成から令和にかけての30余年、とりわけ2000年代に入ってからの20年、花火業界をそして花火愛好家の私を震撼させ、開拓者以外の花火作家達に多大な影響を与えたであろう画期的な花火作品が多数生み出された。その中でこの30余年を代表する名花は間違いなくこれらであろうと順不同に思いつくままに挙げてみた。
 
四重芯変化菊
 それまで三重芯が最高位だった日本の菊花型割物花火を限界突破させた。菊屋小幡花火店の四代目・故小幡清英氏の長年の熱意によって実現したこの玉は、多くの花火作家が追随しそれぞれの四重芯を完成させ、挑戦する全ての花火作家の技量を飛躍的に引き上げた。しかもそれはいちかばちかの開花ではなく、その作家が打ち上げる度にほぼ常に玉名どおりに見えるという安定した技術となって熟成したのである。
万華鏡
 花弁がいくつかまとまって開くという現在の八方咲型割物花火がこの玉によってその玉名とともに一般的に広まった。それ以前に同型の花火には紅屋青木煙火店のポインセチア、未来花がある。磯谷煙火店による万華鏡という名でポピュラーになったが、それは未来花同様にいち煙火店の独自の玉名であるから、この形態の玉を呼称するのは「八方咲型割物花火」とするのが妥当と考える。
光の宝石
 磯谷煙火店開発の八方咲型割物花火の中でもとりわけ印象が強い。開発から徐々に盆が広がる、という咲き方でなく、この玉の最終形態に一気に開花して形を成すスピード感が素晴らしい。
聖礼花
 業界と斎木煙火本店の歴史を変えたであろう奇跡の名花。八方咲型割物花火の形態でありながら構造や開きそのものが従来と違っている。星は3色のパステルカラーで、それまでの同煙火店にはまったくみられなかった発色。聖礼花後の八方咲に多大な影響を与えたと考える。
虹色のグラデーション
 聖礼花の成功の後、複雑かつ根気の必要な星掛けによるグラデーション表現の虹色を開発。その後の虹色の割物シリーズの元となった。グラデーション星はそれ以前に野村花火工業によって実現しているが、同社はそれを継続的には使わず、下記の時差点滅星に傾倒するのである。
幻想イルミネーション
 私的には近年、最も驚愕の体験をした花火だ。その最大の特徴は星そのものにある。何色か他の部分より一瞬ピカッと明るく発光する部分を発火から消滅までの間に何度か配置するという構造。そしてその発光タイミングをずらした星を数種類作り、一つの玉にランダムに込めることで、盆のあちこちで不規則に明滅する開花を実現させた。星は一斉に揃って変色し一斉に消える、足並みが揃うというそれまでの常識を覆した星だ。星の発光または変色の開始ポイントを時間差でずらしていく、という着想は株式会社イケブンの回転リングに端を発する。これがその後の時間差点滅星の元と考える。この着想を取り入れた煙火店は多く、リングが回転するものから盆全体が回転するものまで多種制作された。野村花火工業は時間差を不規則に配置したが、それを規則的に配置し、強く発色した瞬間でパターンを描きそれを連続的に出現変化させたのが株式会社マルゴーである。いずれにせよ完成形を元にタイミングの違う星を緻密に制作し、またそれを管理し、正確に玉殻に装填するという技術は実に精緻で複雑な仕事である。
和火もの
 現代では線香花火の色合いにみられる和火は温故知新の色だが、江戸の昔の古の色がそのままでは暗すぎるので現代風にアレンジされていると考える。パステルカラーなどの中間色の出現による色彩の乱舞する花火大会の中で、優しい心温まる和の色合いは意外と観客に人気のある色といえる。
方向変化系
 下方にも記したが以前は星が自由に飛びまわる、という設定はポカ玉に込められた主にパイブ星だった。ここであげるのは、親星の末端で放物線運動から自由方向に動き回る、という仕掛けのものである。先蜂、遊泳星、流星などと命名され、各社が取り入れている。
     
 万華鏡
  
 もともとは未来花、ポインセチアと呼ばれていました。それというのも、クリスマスシーズンに花屋の店先を飾るポインセチアをモデルとして、最初は紅と緑が主体の花火だったからです。
 ほかにも花車(はなぐるま)や風車(かざぐるま)、コスモスという表現の同様な開きをする玉がありました。
 この花火は基本は菊花型の割物ですが、丸くまんべんなく星が飛ぶそれらと違って、大きく星が間引かれているのが特徴です。
 それまで分かれた花弁は主に全て同色でしたが、5色ほどの色の花弁がランダムに開く玉をある花火作家が競技花火大会に出品しました。それが「万華鏡」と銘々されたことから今では、こうして大きくまとまったいくつかの花弁に開くタイプの割物は、「万華鏡」という名ですっかり定着した感があります。たとえば銀一色だったとしても「銀万華鏡」などと呼んだりします。
 業者によって花弁のまとまり方や、それぞれの花弁を形成する星の個数、色使いなどに特徴がみられます。
   
 飛遊星、遊飛星、引先の遊泳星、引先蜂
   
 放射状に丸く開く菊や牡丹とは異なり、夜空を自由気ままに飛び回る星もすっかりポピュラーになっています。これらは総称として「遊泳星(ゆうえいぼし)」「飛遊星(ひゆうせい)」「遊飛星(ゆうひせい)」「飛星(ひせい)」などと呼んでいて業者ごとに呼び名も色々です。ブーンとうなりながらくるくる螺旋を描いて飛び回る「蜂」もその仲間です。星といってもこれらの多くはパイプ星で、ボール紙などで親指くらいの大きさのパイプを造り、その中にさまざまな火薬を詰めます。薬剤と噴出口をあける位置や大きさで、飛び方が色々の星が作り出せます。これらはたいていポカ玉に装填され、打ち上げられます。空中で容器が2つに割れ、点火された中身を夜空にばらまくのです。あとは星自身の推進力で自在に飛び交っていきます。
 近年多く見られるようになってきたのは、星先で大きく運動するもの(写真)です。菊花はもちろん冠系でも使われます。すでに中国でも使用されています。これはポカ物ではなく普通の円く開く花火で使用されます。円く開いて拡がった後、星が伸びた先で急に不規則に様々な方向に飛び始めるのです。すでに1993年あたりから競技会などでは登場していましたが、1999年は流行年になりました。
   
 立体型物
   
 型物花火の基本は平面的(二次元)なものです。正面から見ればある形に見えますが、側面からは線にしか見えません。
 こうした型物を立体的な形で開かせる玉が出現しました。サングラス(1993)、膨張する立方体(1998-右写真)などです。これらは立体的な形をしている型物です。サングラスでは、全体は従来のような点描で形を出しながら、レンズの部分とツルの部分の関係は、実際のサングラスや眼鏡と同様に出来ています。また浮き輪を輪切りにしたように輪が丸く並ぶ立体ものもあります。
 
 
 
 
 
  
 クロセット菊、クロセット千輪、クロセット星
   
 1998年あたりから全国的に急にポピュラーになってきて2000年度は大流行しています。1990年代始めには、輸入ルートをもつような煙火業者中心に使われ始めています。
 普通の千輪物や、二度咲き、三度咲きと異なっているのは、小割り玉が開いて千輪状に拡がった後、それぞれの星がさらに枝分かれするようにいくつかに分かれていくという点です。最初の小割りがいくつかの星に分かれ、それらの一つずつがさらに4つ、5つに分かれ、というように2段階に枝分かれしていく、というものです。色も各色ありますが、ポピュラーなのは、銀、紅、緑などでしょう(写真・小花入りのクロセット菊)。
 英語品名では、CROSSETTE と表記し CROSS-ETTEとCROSSに名詞の指小語尾ETTEが付いた語句と推察されます。すると語源はクロスするもので、交叉あるいは十字、という風でクロセット星は4方向に割れるのが基本ということができるでしょうか。日本に限らず中国産の花火でもポピュラーなことからルーツは輸入されたものにあるといえるでしょう。中国本土でもすでに打ち上げられていますし、中国の煙火貿易会社のカタログを見ると各色各様のクロセットものが他品種ラインナップされています。
   
 ジランドラス、UFO
   
 1995あるいは1996あたりから使われ始め、日本の各地の花火大会やイベントでも、最近特に見かける機会が多くなってきました。ゆっくりと上昇する様は、それまでのスピーディな打ち上げとは好対照であるので観客の印象も高く、それぞれがとくに彩りに優れているわけではないにもかかわらず、その運動のユニークなことから好評です。初めて見た観客にはことさら不思議な花火に見えるようです。
 日本の花火大会で使用される商品は、まず100パーセント輸入物で、しかもスペイン、イタリアなど欧州からのものが多いようです。外国ではこれらを総じてGirandolas、Girandole(ジランドラス、ジランドール)と呼んでいて、英和辞典の訳語では第一に「回転花火」があてられています。外国での花火の説明としては、ホイール(車輪)が水平に回転しながら上昇する、とされています。回転花火といっても、地上で垂直にまわるだけで飛行しない「火車」「火輪」とは区別します。
 輸入している日本の煙火業者では馴染みがよいように「UFO(ユーフォー)」と呼んでいます。一般観客の間では始めて見た人は他にも「クラゲ」などとも呼んでいますが、その動きや現象から「UFO」というのは無理がない呼称だろうと思います。
 回転花火というのは、まさに回転しながら上昇するからで、かつて玩具花火にも人工衛星というものがあり、現在でも似たように回転しながら舞い上がるものがありますが、ジランドラスも基本的には同じ仕組みです。
 その点火前の形態は以下のセッティングの写真のようになっており、一目瞭然でしょう(リカルド・キャバリエ社製、拡大写真あり)。
 円形の樹脂の(製品の一例、木製や竹製もあります)フレームの周りに、推進用の火薬筒(ドライパーという)が斜めにいくつか取り付けられており、これが上昇と回転運動をもたらしているのです。玩具花火のそれのように、樹脂のフレームはヘリコプターのようなプロペラ状にはなっていません。大きさは色々ありますが流通している商品としては、フレームの直径で25センチから35センチくらいでしょう。点火前は、センターの軸(ボルト)に刺さっていますが、飛んでいくのはフレームの部分だけです。外国ではもっと大型のものも(手作りで)造られ、推進用の花火とは別に星などを搭載して放出する場合もあります。
 日本の花火大会で目にするものには、推進用の火薬筒に詰める火薬の内容で、いくつか種類があるようです。一直線に上昇するもの、途中で推力が落ちて下降したかと思うと再び上昇するもの(これが日本では最も多用されるようです)、途中からスピードアップして上昇するものなどです。
EPAN ジランドラスは日本の観客に限ったことではなく、欧米の花火ファンにもとりわけ人気の高い花火であるようです。それは美的なものより、それが“自力で飛行する”という点にあると推察します。その例として、花火の最大規模のリンクサイトであるTom Dimock's Pyro Pageでも、わざわざ筆頭にジランドラス専用のページを項目を立てて掲載しています(Girandolasに関する自費出版による冊子も手がけたWebマスターの超お気に入り)。以下の海外のホームページを見ればその愛着ぶりと、手造りによる大型のジランドラスの写真がうかがえるでしょう。
 
Jackie Whedbee's World 内の What is a girandola?
  

 また外国の花火情報誌にも関連記事が多く、その一部を右に掲載しました(オランダ発行のEuropean Pyrotechnic Arts Newsletter誌より、日本で見られるGirandolasで有名なスペインの花火業者リカルド・キャバリエ社、社長夫妻ヘのインタビュー記事=拡大画像あり)。
    
 多重芯 三重芯(みえしん)四重芯(よえしん)五重芯(いつえしん)
    
四重芯(よえしん)

 花火は玉名とおりに開くことを想定して作られています。花火作家が予想するように開かなければ少くとも作り手にとっては意味のないことです。割物芯入りではとりわけその傾向は強く、「八重芯は八重芯に開くから八重芯なのだ」という名人花火師の名言を聞いたことがあります。
 四重芯は三重芯(みえしん)にさらに芯がひと重増えたものです。親星一重に芯が四重ですから、計五重の同心球に開くという設計です。製作もさることながら、夜空で実際に五重に開くか?という点から見れば、三重芯の次の四重芯から突然難しくなるようです。三重芯を完全に開かせることが出来る熟練の花火作家にとっても、四重芯はたやすく完成しない玉でした。もちろん内部はそのように作られていても、開花したときに見えなければ成功とはいえないからです(写真・四重芯変化菊−中心から銀、紅、緑、青、引先紅光露)。
 1994年、夜空で四重芯ははじめて玉名通りに開花しました。花火史上に残る一瞬でした。

五重芯(いつえしん)

 世紀末の1999年終盤に、ついに菊花型割物花火は、八重芯の倍密度、つまり親星を含めて6重の同芯球に開かせることに成功しました。
 四重芯、五重芯ともなれば、それは他の芯物と比べればよほどの「超瞬間芸」であって、相当見慣れていても全てを検証(芯がちゃんと出ていたか、色とその変化は、盆の大きさや形はどうだったか?など)することは不可能に近いといえます。だから見るにしても、次に打ちあがる、と身構えて、精神を集中させていなければとても目で追うことはできないし、一般の観覧客には知らされてから見ても、まず三重芯ですらそれとわかる人は少ないだろうと思います。ましてやその裏に潜む技巧や価値などは。なにしろこれほどの玉になると完璧に五重に見えている瞬間は1秒もありません。コンマ何秒の宇宙なのですから、まばたき一つで全てが消えてしまうのです。
 
万人にわかりやすい(見えやすい)多重芯ものへ
 
 これらの三重芯以上の多重の芯を持つ花火は、技巧の追求の過程として必要であることは間違いなく、挑戦と完成には花火の進歩の上で大変な意義があります。ところが同時に、それらは「観る側にも知識と経験、絶対の集中度を求める」ので、分かる人にだけ分かればよい「超芸術」だということになってしまいがちです。
 そしてその分かる人は、製作者のほかには同業者である花火業者。あとは一部の花火愛好家だけに過ぎなかったのです。ところが近年は、これらの多重芯の製作者自身が、「一般のどの観覧客の目にもそれと分かる」ような多重芯に製作の目標を置いているようです。
 普通の人には観ることが出来ないのなら、普通の人にも三重芯、四重芯にちゃんと見えるような玉を作ってやろうじゃないか、という新たな意気込みを嬉しく感じます。
 多重の芯部を十分認識できるためには、芯が幾重にも見えている時間が長くなければなりません。また各層がはっきりと色や明るさの差で分離していないと、一般の人の目には早すぎてとらえられないものです。2000年度になって、これらを考慮した芯のはっきりとした境を持つ、ややゆっくりとしかも少し永く芯部を見せるような傾向に一部の多重芯の割物は成功しています。
   
 和火(わび)、古(いにしえ)の色の復活
    
 何かが新しいとは、「過去に存在しない」という意味ではありますが、過去に存在していたことを知らない世代にとっては、それは正に新しい未経験の事柄になります。
 花火の世界もまたファッションや歌と同様に流行やデザインを繰り返すものだと思います。たとえばコンテスト、競技大会では、常に新作と名の付いた花火が求められ、新作コンテストと銘打った競技会もあるほどです。花火は次から次へ新作を発表すると言うよりは、一つのタイプに磨きをかけて改良していくような熟成をしますから、毎年毎年、そんなに新しいものが出来るわけじゃない、と花火作家さん達は苦労されているようです。
 ですから玉屋、鍵屋の時代、江戸の昔のいにしえの花火などは、現在の誰も見たことが無く、それがどんなものであったか想像するばかりです。
 そんな経緯からでしょうか、1990年代終盤に入ってからそうした時代の「和火(わび)」が現代に復活され、現代人にとっては新規の色合いとして注目さています。和火というのは、日本に外国製の火薬の原料が輸入されていなかった頃の日本の花火のことです。浮世絵に描かれた江戸の花火見物シーンなどに登場する花火といえばわかると思います。これに対し文明開化以降にさかんに輸入されるようになった現在の花火の星を作るためのほとんどの薬剤を使用したものを「洋火」といって分けて呼ぶことがあります。
 「和火」の時代には、さまざまな色を自由にしかも明るく作ることの出来る現在と違って、主に火薬は黒色火薬のみで、その燃える色合いはごく暗いオレンジ色、つまり木炭が燃えるときの色だけしかありませんでした。先人の花火師は、炭にする木の種類を変えたり、その時代に手に入るさまざまな混ぜ物をして独自の燃え方や色の変化を工夫したといわれます。
 その「和火」の色彩が新たな色として受け入れられ、花火の色彩の一部を飾るようになりました。もちろん江戸往時の色合いそのままでは、現代の明るい夜空の中ではあまりに弱々しいので、アレンジされています。
 ありとあらゆる色彩が乱舞する花火大会の中で、ふと、線香花火のようにしっとりとして暖かい色合いの和火が打ち上げられる時間は、心の安らぎを感じるひとときなのかもしれません。
     
 ハーフトーンの星、中間色、パステルカラー
   
 花火作家達の長年の工夫によって、現在の花火の星は様々な色彩を創り出すことが可能になりました。1990年代半ばまでは、それらは主に基本原色である、紅、ピンク、黄、橙、緑、青、紫、金、銀(白)、錦などでした。この中でもピンクや紫は比較的新しい色であるといえます。もちろん色合いはそれを作る煙火業者によって微妙に異なります。
 近年の新しい花火の方向性は形もさることながら色に向かっているように感じます。
 1990年代後半では、ついにこれらのいずれでもない新しい色合いが安定して登場します。それらは中間色、ハーフトーンのことです。黄ではなく、レモン色。朱ではなく、オレンジ色。ほかにもライトグリーン、コバルトグリーン、ライトブルー、ラベンダーとカタカナで記す方が似合っているパステルトーンが様々な煙火業者の研究によって生み出されました。中でもエポックになったのは「水色」です(写真・水色とレモン色牡丹のスターマイン)。青ではなく明るく、涼しい色彩の水色は観客の反応も抜群で、この色彩に取り組む業者が一気に増えました。こうした中間トーンは花火の色彩の表現力を豊かにしてくれるし、2000年代な入ってスタンダードなパレットカラーとして流通、自己開発ともに全国に広まっています。スタンダードということは「どの業者がつくってもだいたい同じ」ということですから安定はしているかわりに個性的でないともいえます。この色はこの花火作家固有の色、あの業者でなければ出せない色、そんな個性をたくさん見たいと思います。もちろん星が綺麗でも形が伴わなければ花火ではないから難しいところなのですが。
 同時に、薄紅、桜色などの日本の伝統的な色彩に挑戦する花火作家も現れました。明るい紅や、薄いピンク色ではなくて、あくまで薄紅、桜色であるというところにこだわりが感じられます。これを薄いピンクだとか、色が抜けていると言ってしまったら、日本人としてはなんとも粋に欠けるような気がして楽しみも半減してしまうのではないでしょうか。
   
 妖精、天使の〜、ウンカ
   
 1997年あたりの新作競技会などで、初めて目にしました。写真などで表現するのは難しいのですが、主にポカ物に仕込む星で、上空で空中に放出された後は、ひとかたまりになってそれぞれの星が大きく震えるように動く、という変わった物です。もとはズバリ輸入ものでしょう。単体の星は夜空ではとても小さな物で、光も弱めなのでボリューム感に欠けるといえるでしょう。動きは可愛らしいのですが、蜂のように大きく動き回るわけではないので、ある程度物量を打たないと効果的ではありません。色は紅、緑、銀などです。
 ある業者が星の動きや、もやったような固まりになって見えるからでしょう「雲霞(うんか)」と名付けたのですが、「ウ○コ」とも聞こえ易いのでやめにしたという話があります。他には「メダカ」などとも呼ばれます。
 現在ではプログラム上では「妖精」などとされる場合が多く、色名を付けて「紅妖精(べにようせい=写真)」、あるいはイメージタイトルで「妖精たちの戯れ」「夜空に遊ぶ天使たち」などと天使にも見立てられて呼ばれています。
 2000年代の現在はあまり使用されない傾向にあります。
   
 観る側の色を感じるセンスについて
    
 欧米や同じアジアでも中国系の花火などは、はっきりとした発色の傾向ですが、色にも明暗、濃淡、清濁、強弱の使い分けがあるのですから(暗い、弱いだけの業者もありますが)。鮮やか、明るい、強いばかりが良い星の色ではないと思います。日本ならではの渋い色も欲しいではないかと欲張ってみたいものです。このあたりは受け手である観覧客も色彩を感じる感受性を豊かに持たなければならないところでしょう。
 日頃見る側の私共も、ちまたにあふれる明るく鮮烈な発色に慣れ、それを花火にも追い求めているのではないでしょうか。そのかたわらで伝統色を見直し、その中で内なる日本的な色の感じ方に目を向けてみるのも忘れたくないと思っています。私たちが色を感じ、識別できる能力は、自身が思っているより遙かに幅広いのです。花火作家の個性である色を、自分の中だけにある色のパレットを尺度にして感覚を狭めてしまうのではなくでなく、作り手の意図のままに感じ、理解する感性を持ち合わせていなければならない、ということになるでしょう。私の思っている赤と違ったら、色合いが悪い、のではなくその作家の色と受け入れることだろうと思います。
 今では、色彩の組み合わせの幅もさらに拡がり、花火の色の表現は飛躍的に豊かになっています。花火作家の中には野や庭の花々に花火づくりのヒントを求める方は多いと聞ききますし、実際、新作などのタイトルを見るとそれらが反映されています。花火の形態を花に模するばかりでなく、われわれの祖先が色の名付けに使ったさまざまな野や市井の色あいもまた今日では新しい色彩といえるのではないでしょうか。
 われわれウォッチャーも新作もの、伝統的なもの、先進的で国際的なもの、日本の文化に根ざしたもの、など多角的な局面で花火を見なければならない時代といえるでしょう。そのいずれもが新しくも懐古的であるともいえ、いずれもが否定される概念ではなく受け入れられる、ということです。
     
 花火打ち上げ専用コンピュータの導入
 
 これは花火の種類ではなくて、打上方法の傾向です。
 現在の花火打上は全国的にみても、その趨勢は人が直接火を点ける方式から、遠隔操作による電気点火に移りつつあります。最近ではさらに、打上専用のコンピュータ点火器を導入している煙火業者も増えてきました。
 これは点火はやはり電気信号で行うのですが、その点火のタイミングをコンピュータでコントロールするものです。タイミングは予めプログラミングするのですが、このコンピュータ点火器の最大の特徴は、音楽との完全なシンクロが可能なことです。つまり音楽を伴った打上をするとき、完全にメロディやリズムに合わせて花火が開くようにプログラムできるのです。
 コンピュータ点火器は、主に輸入製品が多いのですが、煙火業者独自の開発によるオリジナルもあります。
 これにより、花火大会の一連のプロクラムの中で、音楽に合わせて精密に花火が打ち上がる演目を披露する事ができるようになりました。
 では、今後、日本の花火大会は全てコンピュータによる打上で占められるのでしょうか?少なくとも日本ではその可能性は低い、といえるでしょう。こうしたコンピュータによる打上はせいぜい5分から15分程度のプログラムであるのが最適でかつ効果的でしょう。音楽とともにそれ以上長くても見ている方は飽きてしまうし、また事前のプログラミングにも膨大な時間がかかります。なにより、音楽が鳴っている間、なにかしらの花火が上がっているという状態にすれば、日本の花火大会では1時間程度の開催時間がありますから、相応の花火の玉数が必要で、資金的にも成り立たないと思います。欧米ではこうした音楽と共に打ち上げる方式はポピュラーですが、それは主にイベントやセレモニー、テーマパークのアトラクションといった比較的短い時間での消費だから根付いたものといえるでしょう。
 コンピュータ点火器で全てをまかなうような場合は、日本でもテーマパークやイベントでの用途、花火大会の全体の中のプログラムのひとつ、というかたちで発展しどんどん用いられていくと思います。現在では手動による電気点火器、コンピュータ点火器を併用して用途で使い分けているいる業者が増えてきています。
→参照 
電気点火、コンピュータによるコントロールの時代へ

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