花火野郎の観覧日記2003

其の22 9/9,10
片貝まつり浅原神社秋期大祭奉納花火
新潟県・小千谷市片貝町

 今年はまずはNHK連続テレビ小説「こころ」にちなんだ話から。
 ドラマの花火関連の監修をされたのは、地元の片貝煙火工業であるのはドラマを見ている方、花火好きな方には周知のことでしょう。ご覧のように同社事務所は、ドラマ中の「上杉煙火工業」事務所としてそのままロケに使用された建物(外観だけ。ドラマの事務所内はセットです)。さてなにか足りない?そうです8月頃放映の事務所外観の画面(写真左上)と比べて見ると、入り口にあるはずの巨大な花火打ち上げ筒がありません。台座だけがあって3本立っているはずの筒は左端の二尺用1本だけ。今日は片貝まつり本番の日。好評の「こころde勝手に花火ウォッチング」にも既に書いたように、今日は三尺と四尺の筒は「本来の用途」のためにお出かけ中でした。事務所入口はまつり当日らしく、祭礼提灯と紅白の幕で飾られていました。
 事務所の前に立つと、工場への通用門があります。その門柱をよく見ると、「上杉煙火工業」の社名がまだ残っていました。近づいて良く見ると白い文字だけがカッティングシートで貼ってありました。社長さんに話を聞くと、「上杉煙火工業」社名入りのトラックもまだ敷地内にあるそうです。ああ、ここでロケをやったんだなぁと、今更ですがあらためて感慨が深いです。そういえば昨年の片貝まつりの日、事務所に挨拶にやってきたヒロインの中越典子さんを至近距離で見ました。スリムな女性だなぁと印象を感じてから(顔を良く覚えていません)早くも一年経ったわけです。
sajiki.jpg さて片貝まつりのメイン観覧場所の桟敷席に行って見ましょう。ドラマの片貝まつりのシーンは(9/6日放映)7月中に浅原神社境内の現地で収録されました。まつり当日と同じように桟敷席をしつらえて、片貝町の人が大勢エキストラで参加しての録りだったようです。祭り本番に使うわけですから桟敷席もそのまま建設中の本番用のものを使用したそうです。一段高い所にある放送席なども当日とまったく同じです。紅白の幕は祭り直前に張るということですので(汚れるから?)それだけは収録の際に本番と同じに用意したものです。画面に映る範囲だけを造った桟敷と違って今日はまつり本番、ハレの日の象徴のように眩い紅白の幕に仕切られた広大な桟敷席は、片貝ならではの光景といえるでしょう。 
上杉?煙火工業事務所。入口にはこころの幟        

 さて観覧日記。
 神社境内を午前10時頃散策、まずは浅原神社に必勝祈願……いや好天祈願、かな、のお参り。何とぞ、いいコンディションで祭りが催されますように。それから…それから…と、欲張るわりには賽銭が足らないと感じて止める。
 すでに自由観覧席と桟敷当日券の販売を求めて行列が出来ていた。まだ並んでいる人は多くはなかったが、桟敷券の方は夜通し並んだ方もいたらしい。そこまでしなくても買えると思うが、今年はドラマの影響で「すごーく殺到して売り切れてしまうかも?」という危機感があったのかもしれない。 
 傾斜地に設けた桟敷席を登り詰めると、そこは田圃に囲まれた打ち上げ現場で、花火の装填は当日の早朝から行われているから一般の人は桟敷エリアから先へは入ることはできない。同行させていただいた煙火業者さんと一緒に見学させていただく。
 好天となった9日は、午前中から真夏の様な暑さの残暑となった。しかも湿度も高く炎天の花火準備作業は重労働である。冷水タンクに入れ替わり職人さんがやってきては水分を補給していた。見学だけの私も立っているだけで目眩がするくらいなので、ヘルメット着用の正装で黙々と作業を続ける職人さん達には頭が下がる思いだった。
 三脚を持って再び町中に降りてみるとまだまだ露店も準備中の時間だったが、どこにもあの「こころの舞台おぢや」の水色の幟が目立っている。今日はこのドラマの反響で市外、県外から大勢の観覧客が見込まれているらしいが、まだ町中の雰囲気は地元の人のもので、観光客がもたらす気配は感じられない。しかしながら片貝小学校の駐車場は早々に満車を出し、その反響の予感を感じさせてくれた。
 さて、今日はどこから観ようか?いつもの煎餅屋さんで買い込み、そんなことも考えながら歩いて回る。それにしても歩き回るだけで消耗してしまう暑さだ。
 今回、報道者席を申し込むこともできたのだが、いざ桟敷の本部で問い合わせてみると、いつもはその本部の隣にあるはずの報道席が、なんらかの都合で別の場所に飛ばされていたのだった。飛ばされた、と書くのはまさにどっぱずれに消し飛んでいたからだ。そこは桟敷列のもっとも南側の端(花火に向かって左端)で、しかも報道席の前は通路だった。それよりもなによりも境内林が左側に迫っている場所で、ひと目見て「こりゃ絶対使えないなー」と確信した。私も片貝まつりはそれなりに観覧経験があり、撮影のためのロケハンもくまなくやっている。その場所からでは“四尺玉の開花の左側が欠けてしまう”のだ。欠けさせるのは境内林で、狭い報道席の中でも立つ位置によっては半分くらいしか見えないはず。
 結果として愛好家仲間が長年開拓していた、田圃の中で観覧させてもらった。まつり当日は立ち入り禁止の個人の敷地の中なので、そこで撮影させてもらうに仲間が長年に渡る交渉と地主との関係づくりに気を配ってきた場所であった。
 作物に注意しながら三脚を立て、夕方、機材を運んでくるまでは本番までひと段落である。 
     
四尺玉打ち上げ場所、筒は2本用意されています
      
 四尺玉の装填は午後も半ばから行われ、今年もありがたいことに貴重な見学の機会を得た。工場内の火薬庫の外には搬出を待つ四尺玉が鎮座し、見学者の感嘆の声を呼んでいた。そして誰しもが巨大玉を前にするとなんとなく嬉しそうだ。こればかりは、見学の煙火同業者もかわるがわる記念写真を撮ってしまうのも理解できる神々しさだ。そっと触れる玉皮の感触は固く本物の緊迫感。火薬と共に今は静かに眠る片貝町民の幾多の願い。抱きついて頬ずりしたくなるが、こらえる私……。
 四尺玉打ち上げ現場はマスコミを含む見学者もヘルメット着用で一般の人は入れない。そこで現地の様子をパノラマにしてみたので参照して欲しい(写真上)。
 2本の筒は地中にある程度埋めて盛り土をしてある。そこから少し離れた場所に防護壁となる盛り土が堤防の土手のようにあって、我々はそこに立っての見学だ。
 片貝煙火社長の指揮のもと、クレーンで四尺玉がトラックから吊り上げられてゆっくりと筒口まで運ばれる。見ると花火玉が向こうを向いていた(丸い玉の表裏があるかって?あるんだなー)。それを察したかのようにそこでさりげなく玉を廻して「世界一四尺玉」と玉名が書かれた側を我々の方に向けてくれる社長さんのサービス精神が嬉しい。試みに筒の底まで降ろして座りを確認したら再度引き出す。我々の見学はそこまでとなる。それから打ち上げ火薬装填、玉を装填、導火を取って封印される。

 装填の見学から戻るといよいよこちらも車から機材を出して出動だ。
 三脚まで機材を運んだあと、いったん桟敷席に入って既着の仲間のところへ。途中、ネット仲間で花火を奉納するにいがた夜物語の地元あだっちさんのご奉納一行が集まっている桟敷に顔を出してしばし歓談させていただく。そこは桟敷全体のほぼ中央で正面は花火、振り返ればお立ち台と片貝を360度フルに満喫できる絶好の観覧場所だった。
 ドラマの放映では実感が出ていないが、桟敷席の夜はもっとずっと暗い。灯りは行灯のそれだけであるから、隣の人の顔や、手元に置いた仕出しの飲食物もよく見えないくらい。それだからこそ花火がすっきりと見えるのだ。
 神社付近からの絶え間ないお囃子の音もいっそうに高まり、花火太鼓奉納に続いていよいよ「夜の部開始でございます」。
 そしてこの日最初の尺玉奉納。「祝、片貝まつり、尺、尺でございますっ」。
 あぁ、この読み上げの瞬間、自分の中にも片貝まつりが一瞬にして蘇る。
 NHK「こころ」の9月6日放映分は、片貝まつりのシーンだった。収録はもちろん生録りではないから、事前に本番のように仕立てて行っている。片貝まつりに欠かせない「声」・横山さんも、本番さながらに番附を読み上げていた。しかし、いささか緊張されていたのかいつもの調子が出ていないようだった。それが今宵、いよいよまつり当日。その声の張り、艶やかさ、朗々とした読み上げ、もう全てがまったく違う。やはり本番は名調子が冴えわたり輝いていた。桟敷の興奮と渾然一体となって、この名調子が生まれるのだと思った。 
 この晩は、千輪の乱れ咲きで、千輪千輪また千輪。と随所に千輪菊大サービス打ち上げである。3段打ちが全部千輪とか、千輪を盛り込んだスターマインとかとにかく打ちまくり。後で花火屋さんに話を聞くと、初日はお客が多いので、サービスで増量したという。
 初日9日の打ち上げに散りばめられた「八重芯」は14発だった。……って数える仲間がいるんだなぁ。ありがたい。
    

錦冠連打

本日のスペシャルゲスト

正三尺玉
   
 しかし、私もつい玉の出来具合やこうした種類を観てしまうのだが、片貝では奉納者にとってそれは二の次三の次なのだろうと思う。まずは奉納者自身の花火が間違いなく打ち上がって、必ず開くという基本的なことに、片貝ほど意味と意義があるところは少ないだろう。たとえ5号1発の奉納でも、ここでは一発一発の玉に意味があり、願いが込められている。読み上げられる奉納のメッセージひとつひとつに耳を傾けると、それぞれの思いを形にして花火が輝き、拡がる気がする。そうしたかけがえのない花火にはとても存在感を感じるのだ。
 風向きはスタートからしばらくは良好で北側に煙を流していたが、中盤、10号開花域に煙が溜まり気味になり少し残念。その後はまたいい具合になった。低空の射出された煙が中盤以降、だいぶ境内の北側に流れていた。新しい報道席も影響があるかも知れない。
 まつり中盤、桟敷中程に設けられたお立ち台に向けて桟敷入り口から、次々に屋台が上がってくると桟敷全体の興奮はピークに達する。あちこちで渦巻くお囃子と、奉納者達の奇声が飛び交う。爆竹の炸裂音、客の歓声、番附読み上げ。それがぴたりと止む瞬間、桟敷全体が凍り付いたように静まりかえる瞬間。それが世界一四尺玉の打ち上げ時だ。遠くたなびくように鳴り響くサイレンの音だけが辺りを包み、桟敷は固唾を飲んで見守る視線に満ちる。先ほどまであれほど騒いでいた奉納連の誰もが息をころして、いや息を止めて「その時」を待つ。ズーンと低く山が唸って打ちあがると、しばし満ちる“期待”と“不安”“祈り”……。
 いったぁっ、行けっ…………二度咲千輪の花は、錦の小花を山上にまで降らせ、雄大な開きだった。
 …………静寂が大歓声に変わり、初日の奉納花火はフィナーレとなった(写真上)。
 まだ初日であるのに日中からの暑さに体力を削られてバテバテモード。桟敷のお客と屋台が、桟敷席から出きるのを待って観覧場所を後にする。最接近を少し過ぎた火星がほぼ満月の月の側に寄り添うように、聳えていた。 
 
2日目に続く 

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