花火はもちろん打ち上げ技術を見せる
●点火の実際
点火の指揮をとるのは信州煙火工業の藤原氏で、トランシーバーにより打ち上げ順に従って合図を出し、各持ち場でそれに呼吸をあわせて点火スイッチを押す、という段取りである。スタジアムから専用回線の電話で送られるスタートのキューサインを受けてからの8分間は、花火による壮大なオーケストラである。打ち上げの全てが総指揮者である藤原氏に委ねられる。打ち上げ3地点が相当に離れていて、各地点間を配線するのは困難であったため、一ヶ所で一つのスイッチ盤だけで点火することができなかった。トランシーバーも、警備や運営関係で多数使用されており、チャンネルの確保、混信などの問題も突発的に生じるおそれが在るため、二重三重の点火のための連絡体制がとられた。万一不通の時の最終手段は、各自の携帯電話で連絡するというものだった。
装填作業が終わった時点で、各地点の点火担当者(スイッチを押す役目)が一堂に集まって、前日のリハーサルに引き続き、実際のトランシーバーを使用しての最後の呼吸合わせがおこなわれた。全員が真剣な表情である。もちろんこれまでにも、8分間という時間枠の中で打ち上げを終えなければならないため、時計を睨みながらの入念なリハーサルが行われたことだろう。
A1ポイントでトランシーバーを使って、点火の呼吸を合わせるリハーサルをしているところ。打ち上げ順のタイムテーブルを見比べながら、スイッチを押すタイミングが揃うかの最終チェック。
●長野の花火とともに「打ち上げ技術」をも見せる
花火というものは、どんなに精密に造られても、打ち上げられ、花開いてこそはじめて真価が発揮される。従ってここで重要になるのは、打ち上げの技術だ。といっても点火の電気的、機械的な技術のことでなく。どういうタイミングで打っていくか?という煙火業者の意志によるアナログなタイミングコントロールの技術のことである。今回は点火は電気でやっているものの、スイッチを押す頃合を見計らうのは、指揮をとる煙火業者の裁量となる。打ち上がりつつ、開きつつある花火を夜空に見ながら絶妙のタイミングで次の点火合図を出す。花火は上昇時間もあるから経験とカンがたよりだ。それはいわゆる「間(ま)」とか「緩急」といった日本ならではの感覚である。
こうした独自の感性による打ち上げの技術は「魅せるための技術」につながり、最も効果的に花火が夜空に在る状態を生み出すノウハウである。実際には閉会式のお祭りムードの中で、誰もが夢のように花火を見上げる時、その打ち上げ技術に気がつく人は数少ないであろう。しかし「魅せるための技術」が最高に生かされた時、きっと観客は何も考えずに心地よく花火に酔いしれているというものではないだろうか?閉会式花火では、日本の高品質な花火とともに、伝統的なそして磨き上げられた打ち上げ術をも披露したといえるだろう。こうした大型プログラムの時、日本の花火打ち上げは指揮者の居る生のオーケストラなのである。
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