レッスン4 撮影方法 応用編
レッスン4目次
●花火と地上物の組み合わせ
●構図とフレーミング
●花火大会と天候条件
●望遠レンズについて
●市街地、都会での花火撮影の注意
●フイルム交換のタイミング、撮影後のフイルム処理の注意点
●注意すること、マナーについて
おわりに
花火と地上物の組み合わせ
花火写真と呼ばれるもののたいていがこの構成です。
花火はそれだけで十分に美しいものですが、さらに画面内に花火を引き立てる脇役を配置することでより優れた映像となります。
花火を引き立てる脇役には様々なものが考えられます。第一にその場の風景(夜景)でしょう。さらに特徴ある建物、夜店、観覧客、山、川や海、橋、屋形船、季節の花など幾らでもあります。これらを花火と組み合わせることの表現目的は大体次のようなことが挙げられます。
・撮影場所、撮影花火大会がどこであるかの説明。
・花火のスケール感や高度感の表現。
・季節感の強調。
・画面を充実させる。
・その花火大会の特色を強調する。
などがあります。とくにスケール感は作画上の最大のポイントとなります。花火の大きさや上がった高さは、花火と大きさを対比する物が同じ画面に入っていることで、はじめて第三者に伝えることができるからです。さらに画面に立体感つまり奥行きを与え、縦位置で構成することの多い花火写真の画面を充実させてくれます。花火のみを撮るとレンズの焦点距離を変えてしまえば、3号玉も10号玉も画面上ではみな同じ大きさになってしまうからです。
点景を入れての撮影は、花火のみを撮る場合と同様です。花火と地上物を一緒に撮る場合は夜景などを適正に写したりする必要からも、何発くらい写し込むかに加えて、何秒露光したかの(経過)時間の観念が必要になってきます。
もっとも、露光時間のほうは延々と開けていれば空が明るく写ってしまいますから上限として長くてもF11なら12〜3秒でしょう。花火自体はけっこう明るい被写体なのですが、夜景などの地上物によっては花火を数発写している間の露光時間では露光が不足する場合があるので、目当ての花火が上がる前にあらかじめ前露光をしておきます。
レッスン3の複数回の多重露光によって、前もって夜景のみを数秒露光します。そして同じコマに花火と夜景をさらに写し込むのです。またはこの逆の操作になります。時に夜景よっては10数秒も露光したのでは花火に対して明るくなり過ぎる場合もあります。これにはきちんと夜景などの地上物の部分の露出を計るのがベストですが、何度も撮るうちにある程度適正な露光時間がわかってくると思います。夜景などが適切な明るさ(あなたが望むところの)に写る露光時間以内で花火の露光も終了とします。
カメラの前にいる大勢の観客を入れて雰囲気を出したいときには(最も手軽な方法ですが)露光中に観客に向けてストロボを数回発光します。花火大会の報道写真などでよく使われる方法です。これはカメラにストロボを取り付けるのではなく、ストロボを手に持ってテスト発光のスイッチを使うのです(いわゆるオープン発光)。この際、露光中のレンズにストロボ光が入らないように注意します。
新聞などの報道花火写真などの場合は、たいてい画面の3分の2から半分、またはそれ以上も観客を写し込みます。これは「これだけの多くの観覧客で賑わっていました」というニュース要素が不可欠なためです。花火が少々犠牲になっても群衆を描写する事が重要になっています。
構図とフレーミング
構図についてはここまでのなかでもいくつか触れていますが整理してみましょう。
これまでの多くの花火の写真では、主役である花火と脇役であるはずの夜景などの立場が逆になっているものが多かったわけです。それは夜景の「夏らしさ」を強調するために花火を「添える」といったものでした。
構図を決めるうえで重要なのはメインとなる花火と脇役となる地上物などとの画面上でのバランスです。この両者の比率と写っている脇役の内容でその写真の表現意図は大きく違ってきます。それは花火写真であったり花火大会の報道写真、花火の写っている風景写真、風物誌・歳時記写真、夏の観光写真、花火大会の告知写真、花火観覧の記念写真などとなります。ここであくまで脇役と呼んでいるのはこのためで、主たる花火が添えものとして入っていたり、風景の引立て役にならないように構成を考えなければなりません。山の写っている風景写真と山岳写真の違いのようなものです。どの様な写真を撮る場合でも言えることですが、次の点について予めはっきりとさせておくことが大事でしょう。
・何を撮ろうとしているのか
・何を一番に見せたいのか
・それらをどの様に撮りたいのか。
たとえば私が花火写真として定義しているものは、あくまで花火が単独でまたは画面の主体として写っているものです。その他の花火写真のベテランはひとそれぞれ自分なりの定義をもって撮っています。ただこれから花火の写真を始められる方や、撮り始めて間がない方はそれほど厳密に考える必要はないと思います。花火をいち風景としてとらえるほか、観覧の記念、夏の風物誌、夏休みの思い出、感動の記録など写し手の意図によってその写真の定義や撮影の方法は様々で、ひとつに限定できないからです。下記 注参照
それでは他にはどのような点に気をつければおさまりの良いフレーミングになるでしょうか?作例を見てみましょう。
注・作例は解説のためにデジタル合成により作成したものです。撮影及び合成作業は小野里公成自身が行っています。作例2.3.4の構図では実際の撮影はできないこと(一発撮りでは撮影不可能な構図)をお断りいたします。なおやや大きいJPEG画像を見ることができます。JPEG=68K
作例1のように連発物(スターマインなど)や単発打ち上げで、花火全体をそっくり撮ってしまうと、欠けていない点は良いとしてもこぢんまりとして、あまりパッとしない印象になります。これはレンズの選択が適切でない例です。というよりどこも欠けないようにしてより広角レンズを選んでしまった結果です。
この場合、作例1-bのように画面からハミ出す部分があるくらいの画角で撮ってみると、全然迫力が違うことが良くわかるといます。とくに大都市圏の花火大会のように安全上大きな玉が上がらないところでは「花火の一部を意図的に画面外に出す」のは、迫力や臨場感を伝えるには効果的なフレーミングです。
作例2〜4を御覧ください。脇役が点景として入っている意味合いとバランスがわかると思います。作例2では両者の関係はイーブンです。まとまりの良い限界でしょうか。ともすればどちらが主体なのかがわからなくなってしまいます。作例3が点景としては最適でしょう。作例4の配置になるとどうでしょうか。花火は主役の座を奪われて逆に脇役の方を引き立ててしまっています。
主たる花火を生かすための効果的な地上物や脇役の配分はその内容にもよりますが、縦位置、横位置とも画面全体の5分の1以下でしょう。もちろん単純な画面上の大きさの比較だけでは語れませんが、要は「何が主題なのか?」をはっきりさせることです。
注 以上はあくまで花火を主体とした花火写真を撮る場合です。あなたの撮影対象のメインが花火ではない場合については、これまでの撮影データやテクニックの全てが当てはまるわけではありません。たとえば花火の写っている記念写真、花火の写っている風景写真、花火の写っている観光写真、花火大会の報道写真、夏の風物誌写真、などを撮影したい方はそれぞれの○○写真の撮り方についての解説書を御覧ください。
花火大会と天候条件
ここで簡単に花火写真撮影と天候について述べてみましょう。レッスン2で書いたように、花火大会そのものが中止か決行かの主催側の判断の決め手は雨と強風である場合がほとんどです。これは大会当日が朝から実施に適さない天候であれば昼までには決定され広報されます。また打ち上げ時刻には天候悪化が見込まれる予報であるとき(台風接近など)も同様です。打ち上げ側にも観覧客にとっても困るのははっきりしない天候のときでしょう。どちらにとっても最悪なのは打ち上げ時刻間際になって天候が悪化するときで、雷雨などがよい例です。通常の納涼花火大会では強風を伴わなければたいていこんな条件では打ち上げを強行します。予め少雨決行とうたっているところさえあります。はっきりいって雨中の花火ほど情けないものはないでしょう。 雨をもたらす雲の底は地表から250メートル前後と低く、5号玉以上の花火はすべて雲の中で炸裂し、稲光りのように雨雲が光るだけでまったく花火の全貌を見ることが出来ません。この様なときは当然撮影になりません。機材も冠水し、とくに傘で防いでもレンズにたえず雨滴がつき、撤収を余儀無くされるでしょう。(写真右)
また風が強い日に実施された場合の問題点は、打ち上げ玉や星が風に流されることです(写真左)。打ち上げた玉は垂直に上昇せず風下に斜めに打ち上がり、開いた玉も流れて歪になります。この場合も撮影はお勧めできません。軽量三脚をいっぱいに伸ばして使用しているときなど、ブレの問題も出てきます。
花火写真にとって最良の気象条件は快晴微風です(風速1.5メートル以上)。曇りの日または雲が多いと空がなかなか暗くならず、街明りを反射して空が明るくさえなってしまうからです。したがって雲が多い日にはできるだけトータルした露光時間を短めにします。快晴時と同じ露光条件にすると空が「闇」にならず、花火がくっきりと浮かび上がらない中途半端にな明るさになってしまいます。
望遠レンズについて
100ミリ以上の望遠レンズの使用目的は大別すると次の二つになります。
1.風景などの全体の一部分を切り取って作画する。
2.被写体に近づけない場合に被写体の方を手前に引き寄せて作画する。
花火写真においてはこのどちらもが望遠レンズを使うときの目的となるでしょう。1の場合は感動した特定の部分または強調したい部分を抽出するという目的です。例えば連続して打ち上がる花火のうち、気にいった玉のみを狙うとか、スターマインなどでよりフレーム一杯まで収めて迫力やスケール感を出す時、仕掛け花火のアップなどです。しかしそれも程度問題で、至近距離から大望遠レンズを使って花火のほんのごく一部を撮るようなものは花火の写真とは言えないかもしれません。ピント合わせも困難です。
2は単純に観覧場所または撮影ポイントが打ち上げ地点から遠い場合です。花火写真の場合、1キロメートルを超えればかなり離れた場所といえますが、意図的にせよ止むなくであるにせよ遠くから狙わなければならない場合もあります。夏場は夜間でも冬ほど大気が澄んでいるとはいえず、意図的な作画の場合もシャープな写像を望むならできるかぎり極端な望遠を使いたくないところです。基本的には、「遠くから大写しをするために大望遠を使用するくらいなら、近くで標準レンズで撮るべきだ」といえましょう。
市街地、都会での花火撮影の注意
これはいうまでもなく、トータルした露出を短めにするということにつきるでしょう。とにかく市街地とくに大都市圏の空が異様に明るいためです。花火の形や色合いをくっきりと写すために何より必要なことは「背景となる空がしっかりと暗い」ことですが、都市近郊では少々無理な条件のようです。街明かりのせいで見た目にも夜空は闇にならず、いつまでもほの明るい。快晴ならよいのですが、雲が出ていれば空は肉眼でも乳白色で、露光をかけていけばどうなるかは明白と思います。
また、こうした光害地域であるにもかかわらず、開始時間が早すぎる花火大会も少なくありません。殆どは早く終わらせたいからですが、当然夏場の19時あたりにスタートしたのでは、まだまだ夜空になりきっていません。早い時間帯の撮影ははっきりいって無駄以外のなにものでもありません。しばらく展開を観ながら20時くらいから本格的に撮り始めることをお薦めします。
作例写真左は19:30頃の撮影、雲の形が写るほど空が明るくなっています。とりわけ通常より露光時間が長すぎたわけではありません。こうなってしまうのが都心の空です。作例写真右は20:00を過ぎ、さらにトータルの露出が短めになるように調節した場合です。夜景の抽出に好みが出るところですが、花火を活かす目的なら妥当な仕上がりといえます。
都市近郊の花火大会ではなるべく都市中心部の明るい空に、レンズが向かないような位置を撮影場所に選ぶことも大切です。また、日没方向にレンズが向く場合は他に比べてより暗くなるのが遅くなりますから考慮しましょう。1回の露光は早めに切り上げて、必要以上に空が明るく写らないように気をつけます。街明りを反映した夜空は黒くならず暗緑色で、花火の赤系の色合いとは反対色(互いに反発し合う不調和な色)になります。これは花火の色彩をバックの色がジャマをしているという著しく不快な画面といえます。
すでに花火撮影をしている方で、都市近郊の花火大会での花火写真がどうもパッとしないという場合は、腕前よりもこの花火大会が行われる場所が(玉の内容も?)悪いという原因も見逃せません。この場合、現在やっているよりもまず、やや早めにシャッターを閉じる、もう一段くらい絞るなど露光を短めにしてみてはどうでしょうか。加えて夜景をしっかり撮ることにはあまりこだわらないこと、これだけで見違えるほど色ヌケの良い花火に写るはずです。
フイルム交換のタイミング
シームレスで撮れるデジタルカメラと違って銀塩では誰でもかならず撮影中にフイルムチェンジの時がやってきます。花火撮影中にはうまく花火の打ち上げと打ち上げの合間、インターバルを逃さないようにします。通常、間を開けずにプログラムは進行していきますが、必ず間が開くときがあります。この様なときに残り枚数があっても、早めにさっさと新しいフイルムに換えてしまいます。それはズバリ良いシャッターチャンスを逃さないためです。撮影中は常にあと何枚残っているかを把握しておきましょう。いい花火が上がっている途中でのフイルムぎれほど残念なものはありません。35ミリではとくに巻き戻しの(たとえ自動でも)手間があるので、詰め換えている間にどんどん貴重なひとときを逃してしまいます。合間をみて早めにチェンジすること、残り枚数を惜しまないこと、がポイントです。
撮影後のフイルム処理の注意点
さて撮影後は現像に出すわけですが、現像後の花火の写真は大部分に夜空が写っているため、コマとコマの切れ目がよく分からなくなります。ネガフイルムの場合は機械による自動現像・プリントなのであまり問題ではないでしょう。それでもまず現像だけ出して出来上りを見てからセレクトし、良いものだけプリントするほうが結局得でもあります。その際も下記のポジと同様「長巻きのまま」に指定して、あがってきてから自分で6コマずつ(35ミリ36枚撮りの場合)にカットしてプリントに出すのが理想的です。
ポジフイルムの場合は必ず現像に出すときに受け付けの人に「長巻きのまま」または「ノーカット」と指定します。するとどこも切り離さないで長いままのフイルムで現像ができてきます。通常はこの後ラボのほうで1コマずつ切り離した後マウントをしたり(スライドの枠を付けること)しますが、この部分の作業は自分自身でやることをお勧めします。連続するコマの切れ目がどこなのかは撮影した本人にしかわからないからです。実際マウントをつけるように指定しても、ラボのほうでうかつなカットができないと判断すれば自動的に「長巻きのまま」出してきます。
注意すること、マナーについて
・撮影後の忘れ物。
立ち去る前に足元や辺りを懐中電灯を使って見回してみましょう。
・撮影場所をちらかさない。
空き缶や食べ散らかしはもちろんフイルムの空き箱など写真撮影者ならではのゴミを出さないこと、残さないこと。
・絶対に人の三脚の前に三脚を立てないこと。
花火撮影のための場所取りは一般的には早い者勝ちの世界です。早くから場所を取って待機している人の前で撮影しないのは最低のエチケットです。あとから割り込む際にも左右の人の了解をとりましょう。あとから来て、人の撮ろうとしている画角(フレーミング)中に不用意に入り込むのは重大なマナー違反で、極めて無礼なことです。せっかく撮った写真の中に、観客はともかく他の撮影者の三脚やカメラが写り込むのは、その作品を台無しにしてしまいます。この無神経な行為による無用なトラブルはぜひ避けたいところです。
・一般の観覧客への気配りを忘れずに。
花火を観ているのはあなただけではありませんし、写真を撮っていることが万能なわけでもありません。撮影しているあなたと三脚が、周りで座って観ている人達のジャマになっていませんか?立ったままなら撮影場所は一般客のいちばん後ろで良いのです。
・人混みに注意。
帰路の暗がりの人混みの中でとくに撮影者が注意したいのは三脚。むき出しでベルトをつけて肩に掛けていると周囲の人の顔に当たったりして危険です。人混みの中では三脚ベルトは手持ちにして、低く下げたいところです。三脚は専用のキャリーバッグに収容するのが良いでしょう。またカメラバッグやむき出しのカメラボディも肩に掛けていると、子供の顔や頭に当たるので気をつけましょう。
おわりに
以上簡単に花火撮影のテクニックとカメラ操作以外のノウハウをまとめてみました。これで基本的な事柄は殆ど記しました。中には少々文章だけではわかりにくい表現があると思いますがご容赦願いたいと思います。しかしながらこれを読んで「いっちょうやってみるか」とまずは気軽に花火を撮り始める方が出てくればうれしいかぎりです。また、すでに花火撮影を楽しまれている方にも、よりよい作品づくりのための参考になれば幸いです。
今後、ご意見、ご質問などを反映させて改訂していきたいと思っています。
皆さんの中には物足りないという方もいるかもしれません。この初級編に「物足りなさ」を感じた方は続いて探求(研究)編をご覧ください。
今回は実はもっとも重要な「花火そのものの知識」については省略させていただきました。興味のある方は、このホームページの「日本の花火をもっと知りたい」や「花火カタログ」「明解 花火関連用語事典」をご覧下さい。また、花火について書かれたいくつかの解説本を読んでいただきたいと思います。花火の解説書についてはホームページ内でも紹介しています。
それでは、既にある程度花火撮影を楽しまれている方へもメッセージを送りたいと思います。
ながらく花火を撮り続けていると、技術的な行き詰まりや、なにか変わった撮り方がしたい、と感じることがあると思います。新しいテクニックや機材だけに魅力を感じ、それらに救いを見いだすことがあるかもしれません。その時、自分の写真作品を高める要素は、カメラ操作や奇抜な撮影技法、露出などの数値データ以外の何なのか?について是非考えてみてください。人によって様々なその「答え」が上級へのキーワードになるはずです。
より良く撮るためには、「実際の花火から目を離さず、肉眼で花火を観賞しながら撮ることが大切です」と書いて終わりにしたいと思います。
それでは皆さんがお出かけになる花火大会が観覧の日和に恵まれ、よい花火写真を完成されることをお祈りいたします。
小野里公成
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