【割物・小割物・ポカ物】
わりもの・こわりもの・ぽかもの
日本の花火をその構造と内包物で分類するとこの三つが基本になる。簡単にいえば玉の割れ方の違いである。菊や牡丹などの代表的な日本の花火は割物と呼ばれている。これは開発時(上空で開いた瞬間)に、星の入れ物である玉殻が割火薬(わりかやく)によって粉砕され、中身の星を球形に遠くまで飛ばす花火である。これに対し、音もの(雷など)や蜂などの分包ものに代表されるのがポカ物だ。使用される割火薬は量も少なく割物ほど強力ではない。玉殻は合わせ目からほぼ二つに割れ、中身を空中に放出する。ポカ物では尺玉などの大型花火は一般的ではない。
千輪菊(せんりんぎく)
や冠菊(かむろぎく)、椰子等に代表される小割物(半割物ともいう)はこの両者の中間くらいと考えればよい。詳しくは
「日本の花火をもっと知りたい」
のページを参照。
【尺玉】
しゃくだま
尺貫法に基づく玉の大きさで、打ち上げ前の玉の直径が一尺のもの。単に「尺(しゃく)」と呼ぶほか、現在は10号玉、あるいは30センチ玉とセンチメートルでも呼ぶ。いずれにしても、本来は打ち上げ筒の内径の大きさで区別していた。つまり尺玉なら内径が一尺の筒に入る玉ということ。玉の大きさは筒内にぴったりではなく、やや余裕があるので実際の直径は1〜2センチ小さい。一般的な尺玉=10号玉の開花時には直径320メートル、爆発の中心までの高度は330メートルに達する。
【星】
花火の主たる構成部品で開いたときの花弁を形作るもの。主に球形、四角、錠剤型の火薬の固まりで、大きさは数センチ程度。出来上がりの花火玉の大きさに合わせて必要な星の直径も異なり、八重芯など芯物では、各層に入れる星の大きさもそれぞれ異なる。尺玉の親星(写真右)で直径約2センチ程度。花火に色があるのは、内包する無数の星が色を出しながら燃えて飛び散るためである。ちなみに英語でも「Star(スター)」という。
【親星】
おやぼし
芯入り菊花花火の場合の一番外側の花弁を作る星の総称。
【芯星】
しんぼし
芯入り菊花花火の場合の内側の花弁を作る星の総称。
【夜物と昼物】
よるものとひるもの
夜の花火大会で打ち上げられる花火は夜物ということになる。あえて夜物というのは、これに対する昼物、つまり昼花火と区別するため。夜物の説明は省くが、昼物も夜の花火同様いくつもの種類がある。代表的なのが運動会等の告知に使用される音だけの花火だ。このほかに彩色のスモークを使った煙菊(えんぎく)や煙竜(えんりゅう)、煙柳(えんりゅう)(
花火カタログ
のページで写真が見られます)。いまではほとんど観られない、袋物(ふくろもの)や旗物(はたもの)が昼物として数えられている。
【玉名】
(ぎょくめい)
花火につける名前が玉名だ。日本の花火、とくに割物花火につける玉名はとても合理的にできている。花火が打ち上げられて上昇し、開花して消えるまでの様子を玉名に表したもの。だから玉名を読めばその花火がどういう内容の開きをするのかが一目で分かる。
例 昇り小花八重芯錦先の紅青光露
(のぼりこばな やえしんにしき さきの べにあおこうろ)
小さな花を咲かせながら上昇し、錦(茶色ぽい黄色=金色)の花が咲いて、その先端が紅から青、さらに白くピカッと光って消える、三度の色変化をする。さらに八重芯であるので中央に二重の芯部を持ち、計三重の花が開く。
このような伝統的な玉名の付け方は主に割物、小割物花火で一般的だ。
スターマインなどでは、「宇宙からのメッセージ」「トロピカルドリーム」「真夏の夜のできごと」など、その打ち上げ全体のイメージとしての玉名(タイトル)をつけるのが普通になっている。最近では割物花火にもこうしたイメージタイトルを付けて打ち上げたりしている花火大会もある。このような場合は制作者である花火師ではなく主催者が考えたタイトルであることが多いが、演出やエンターテイメントが重視される昨今では、煙火業者自らがふさわしいタイトルを考案することも増えてきている。
→玉名の法則
【小割り・小割玉】
こわり・こわりだま
小割物の小割。小割浮模様の小割。小割りは主に、より大きな花火の中に詰めるためのより小さな花火玉。たいていは球形で割物のように星を詰めたものだ。例えば千輪菊ではこの小割玉を割火薬とともに必要量詰める。菊や牡丹の中心に割火薬とともに小割玉を詰めた物は、丸く開いた大きな花の中心に小花が散る「小割浮模様(こわりうきもよう)」となる。このほか曲ものとして玉の外側に付加すれば、上昇中に小花が開く「昇り小花付き」になる。
【菊 牡丹】
きく、ぼたん
丸く開く日本の割物花火の基本型で全ての基礎となる分類。菊と牡丹の違いは星の種類の違いで、花火玉に組み立てる方法や玉内部の構造は同じ。菊に使う星は「菊星(きくぼし)」、牡丹は「牡丹星(ぼたんぼし)」と呼んで区別される。
「菊星」基本となる炭が燃える色の「引き(ひき)」がごく暗い光跡を残して飛び、末端で発色や光露に続く場合(引き先・・)が多い。菊の本体はこの引きの部分であり、変化の無い菊のことを単に引きとも言い、この場合消えるまで全て暗い炭火色である。
「牡丹星」は光跡を描かず着火した瞬間から発色して飛ぶ。
「芯物」ではこの両方の星を組み合わせて使うが、親星にどちらを使うかで「菊」か「牡丹」となる。
詳細→菊と牡丹の違い
【芯、芯物、芯入り】
しん、しんもの、しんいり
「芯」-菊花型割物花火で外側の花弁となる親星の内側に入れる花弁(芯星)のこと。この芯部の芯星が一つ入って全体で二重丸に開く割物を「芯物」または「芯入り」という。例・芯入変化菊。
なお牡丹の場合は芯を一つ入れるのが決まりであえて芯入牡丹とは言わないのが基本。芯無しの牡丹は万星(まんせい、まんぼし)と呼んで区別していたが現在では牡丹星を使う割物は単に牡丹と呼ぶ。ただし八重芯牡丹はある。
さらに芯が二重になり全体で三重になるものを「八重芯」、芯が三重になり全体で四重になるものを「三重芯」といい現在はさらに多い四重芯(よえしん=五重丸となる)の菊もある。つまり「・・芯変化菊」と玉名が付く場合は芯の数で、一番外周の親星は数えない。実際の開花は芯の数プラス1の同心球となる。
→親星、芯星
【割りっぱなし、芯抜き】
わりっぱなし、しんぬき
割物花火で親星と割火薬だけの芯部のない菊または牡丹のことで俗に「割りっぱなし」などと呼ぶ。割物のもっとも基本となる込め(星の詰め)型。構造が簡単であるが変色星を使えば観賞に堪える変化菊を作ることもできる。
「芯抜き」というのは事実芯が入っていないからで、俗に芯入りの玉を作ることができる技術がない業者の割物を冗談で揶揄する言葉。
【張り 玉貼り】
はり、たまばり
似ているようでまったく違う意味だが関係の深い用語。
「張り」とはテンション(緊張力)の意味に近い。主に割火薬の爆発力に対する玉皮の抵抗力を意味する。張りを持たせる、張りを強くする、などと使われる。一般に菊花型割物花火制作においてバランスの微妙な要素である。バランスとは割火薬のパワーと玉殻の抵抗力(強度)とのバランスを指し、作者の解釈によって異なる。割火薬によって玉皮が粉砕されようとする力を玉皮自体がある程度抑えこむことで、かえって反発力により遠くに星を飛ばすこと(盆を大きくする)になるのだが、割火薬の全体パワーに比して張りが強すぎても弱すぎても盆が大きくならない。また盆の大きさだけでなく、開き具合、つまり勢いよく開くか穏やかに開くかなどのその割物の個性にも影響する。
この「張り」は「玉貼り」によってもたらされる。「玉貼り」とは玉皮の上にクラフト紙などを上貼りしていく作業のこと。成形されたボール紙などの玉皮に星と割火薬を詰めただけでは花火には成り得ず、その上に上張りを重ねることではじめて丸く大きく開くことが出来る。
一般に玉込め(星と割火薬を詰める作業)の終了した玉の上からクラフト紙などを十数回から二十数回(玉の内容や業者によって異なる)、貼っては天日に乾かし、また貼るを繰り返して完成する。
【引く・引き・引き先(引先)・引き足(引足)】
ひく・ひき・ひきさき・ひきあし
「引き」とは主に(菊)星が飛びちっていく時の光跡のこと。星が尾を「引く」、ともいう。牡丹の色星は尾を引かない=光跡を残さない。この際の菊星のベーシックな引き色つまり光跡の色は、炭色である。これは炭が燃えるときのような暗いオレンジ色。これに対し「引き先」は燃えながら飛んでいく星の先端、つまり花弁の先っぽのこと。玉名で引先紅緑(ひきさきべにみどり)、引先青光露(ひきさきあおこうろ)などと使う。前者は花弁の先端が引色つまり炭色から紅、そして緑へ色が変わって消える菊星のこと。後者は引色から青に変わり消え際にピカッと光る菊星の変化をいう。このことから割物の菊のことを単に「引き」と呼ぶ場合もある。
「引き足」はこの光跡の長さ、つまり星の滞空時間あるいは燃焼時間の長さをいう。引き足が長い花火の代表は冠菊(かむろぎく)である。
【ザラ星・ザラ玉】
ざらぼし・ざらだま
通常の花火玉に詰める星と同じだが、スターマインのアクセサリーとして使うときこのように呼んでいる。スターマインを打ち上げるとき筒から最初に吹き出す部分に使用される。(右写真参照)。打ち上げ筒内に花火玉、発射薬とともに適当量のザラ星をバラバラ入れると、点火と同時に花火玉と一緒に放出される。星として使用する丸星のほか、笛や雷、遊泳星なども適当に組み合わせて使用する。
【音物】【雷】
おともの、らい
一般に大きな音を発する花火を音物といい、雷は代表格。運動会のお知らせ花火などで「ドン、ドン、ドン」と大きな爆発音を発する花火がお馴染みだろう。「ドン」が一回なら号砲雷。連続三回は三段雷、五回なら五段雷という。夜物に使うときは閃光が伴う「花雷(はならい)」あるいは「銀爆」が一般的。
【ぱっくり・ばっくり法】
ぱっくり、ぱっくりほう
花火玉の製作法。半球の玉皮のそれぞれに星と割薬を込め、最後に二つに合わせる組立方法。効率よく、量産のきく方法で、割りっぱなしの菊や牡丹(芯抜き)の場合、小玉から大玉まで幅広く用いられている。合わせ面が開花の時に出る場合がある。高度な芯入りの割物を作るには上下の=親導のある方と無い方=構造を均質に作り、各芯部がきっちりと合わなければならないので丁寧な作り込みが要求される。
【抜芯、抜き芯、芯を抜いて造る】
ぬきじん、しんをぬいてつくる
菊花型割物花火の製作法。ぱっくり法と対極にある非常に高度な芯物の製作方法。7号以上の玉で用いられるが、非常に手間と技術を要する込め方で、量産にはまったく向いていないし、どの煙火業者でも可能な方法ではない。芯入り菊花型割物花火(例・八重芯変化菊)の芯部は完全なる球体でなければならず、これを実現させるために親星以外の親導を含む芯部分を、中心となる芯部から先に順番に立体的に製作し、最後に親星とその内側の割火薬と合体させる。このように芯部分を抜き出して別個に制作することからそのように呼ぶのであろう。抜き芯で芯部を作った場合は天井詰めなどで親星を込める。
【天井詰め、窓詰め】
てんじょうづめ、まどづめ
花火玉の製作法。星の装填方法。特に天井詰めという場合は、半球の玉皮(親導側)にぱっくり法と同じように下半分の星と玉と割薬を装填した後、天頂部を丸く切り取った上半分の玉皮を先に張り合わせ、先に球体の玉皮を作る。このあと上部にあけた穴から、上半分の星と割薬を順次装填する。最後に切り取った上部玉皮で蓋をして完成する。ぱっくり法と異なり、星と割薬の接合面のない立体的な組立方なので、開花時により完全な球体に近く開く。
このようにまず球体の入れ物を先に組み立て、一部に開けた穴から内容物を込める製作方法を「天井詰め」「窓詰め」という。とくに二尺、三尺などの大玉ではごく普通の込め方となり、天頂部に開けた装填穴から全ての内容物を立体的に組み上げて詰めていく。
【星掛け、増粒】
ほしかけ、ぞうりゅう
一般に掛け星を太らせていく工程あるいは掛け星を作ることそのものを指す。菜種粒、セラミック粒、または切星などを芯にして、周りに順次、水溶きした火薬を付着させていき、少しずつ次第に大きな丸星にしていくこと。この作業には一般的に「増粒器(ぞうりゅうき)」という専用の機械が使用される。大きな金たらいやお釜が回転するような構造で、中に星と付着させる火薬とを入れて回転させると、均等にまぶされて丸い星ができあがる。星を途中で色変わりさせるには、ある程度まで太らせた星の外側に、別の色になる火薬をさらに掛けて層にするのである。機械を使用しての作業であるが、ミリ単位で大きくしては乾燥を繰り返すので、尺玉に使用する直径20ミリ程度の星を作るのに20日近くかかる。
【昇り 昇曲付き 昇曲導付き】
のぼりきょくどうつき
英語ではRising Attachmentsという。上昇中の付加物である。本体とは別に小型の花火玉を装着し、本体と同時に打ち上げる。本体が開花するまでの上昇中に小花を開かせたり、音を出したりという変化をみせる工夫だ。つまりこうした追加の花火「昇り曲」が装着されている花火を昇り曲「付き」というのである。上昇中にも目を楽しませようという先人のサービス精神から生まれたという。凝った曲物(例・写真下左)は手間がかかり、当然単価も高くなる。こうした手の込んだ曲は一般的な納涼花火大会より、競技大会などの出品作などでよくみられる。
付加する花火によって昇り小花、昇り分花(火)、昇り銀竜、昇り笛付、昇り置き光月、昇り電光など様々な種類がある。(写真右・昇小花付-のぼりこばなつき)
【点滅・スパンコール】
てんめつ・すぱんこーる
点滅星(てんめつぼし)そのもの、または点滅星を内包した花火玉のこと。点滅星は(
星についてもっと知りたい
参照)実際にピカピカとついたり消えたりを繰り返し、点滅しているように飛ぶ星のこと。俗にキラキラとかピカピカなどとも呼ばれる。非常に明るい発色で、白=銀、紅、青、緑などが代表的な色である。点滅星だけを込めた半割物の他に、八重芯菊の芯部や引き先など部分的に点滅の薬を掛けて使用する場合もある。この場合玉名において、点滅芯、引先紅点滅などと呼ばれる。また全てを点滅玉で構成する点滅スターマインもよく観られる例。
【覆輪 リング入り 残輪】
ふくりん、りんぐいり、ざんりん
割物花火において親星または芯星の中に一周だけリング状に別の発色の星を込め、開いたときにそこだけ色違いのリング(輪っか)が見えるようにしたもの。この時周囲と同じ大きさの星では目立たなくなるので、一回り大きな星を使い、リングの部分だけより外側へ飛ぶ(光跡が長くなる)ようにする場合が多い。輪の部分の星も明解な色違いの牡丹星やダリヤ星の他、椰子や冠に使うような打ち星なども使用される。玉名例・昇曲付紅リング入八重芯錦冠菊
「残輪」というのはやはり同じ様に輪が現れる花火だが、本体の親星や芯星が変化を終え消えた後に、輪だけが残るような時間差をとった割物のことをいう。輪の部分には冠菊のような引き足の長い星を使い、光露もつけるのがよく観られる例。玉名例・昇曲付八重芯変化菊残輪
写真左・芯入り覆輪物(上図のような玉)の開花時の様子。
【光露 群声 先割れ 降雪】
こうろ(てか)、ぐんせい、さきわれ、こうせつ
星の種類の違いであるが、特に消え際の変化の部分を表す用語。星の消え際が瞬間「ピカッ」と白く輝くのが「光露または降雪」で光露の方が明るい。光露は通称「てか」とも言う。「照」と書いてテカであろうか。ピカッと光るのをテカッたというためであろうか。玉名で「引先青光露」は「ひきさきあおこうろ」と読むが、「ひきさきあおてか」でも良いわけである。
「ザーッ」と波が寄せるような音を出して消える星を「群声」。パリパリッと音を出すのは「先割れ」という。
【芯月・残月・残光】
しんつき、ざんげつ、ざんこう
菊先青光露残月などの玉名にみられる。中心部に吊り星を込め、開花とともに(芯月)開花したあと各星が消えてから(残月、残光)も中心部に明るい光が数秒間残るような割物花火の現象またはその吊り星を指す。あまり多重の芯物にはみられない。
【筒、打ち上げ筒】
花火玉を空高く打ち上げるためには、打ち上げ用の筒は不可欠となる。普通は一発に付き一本必要で、打ち上げる玉の大きさに合わせて筒にも色々なサイズ(内径)がある。スターマインなどでは重ね玉といって一本の筒に2個くらい重ねて装填することもある。
昔の打ち上げ筒は木製で外側に竹の「たが」を填めて補強した物だった。その後は鉄(スチール)製が一般となり、現在では鉄製、ステンレス製を主流に、グラスファイバー製、紙製などが用途によって使われている。紙製は一度きりの使い捨てなるものから複数回使用可能な物まで厚さと材質による強度の違いがある。
電気点火の普及によって、一般的に打ち上げる玉数分の全ての筒を用意する必要がある。また打ち上げの様々な演出に合わせて、メーカーでも斜め打ちや(あらかじめ角度を付けたもの)一斉打ちなどにあわせたユニット製品の筒を供給している。
欧米では安全と発煙の軽減から、圧縮空気で一気に花火を放出するような打ち上げ方法と筒も実用している。
【スターマイン】
速射連発花火
日本の伝統的な割物花火の単発打ち上げを一輪挿しの花に例えるなら、スターマインはさしずめ花瓶にこぼれんばかりの花束や花壇に咲き揃う色とりどりの花花だろうか。最も豪華で華やかな花火とされるのがスターマインである。現在では予め玉を装填した筒を数十本から、大型のものでは数百本並べ、連結された導火線によって次々に打ち上げるという方法を採っている。玉の種類や大きさ、色合いの組み合わせ、打ち上げのリズムやテンポによって、非常にたくさんの種類があり、単独でひとつのイメージを表現したり、音楽やレーザー光線と組み合わせたりと様々な演出を生み出すことができる。
現在では安全と効率化のため、現場で装填作業をせず、花火工場内で全てセット済みのパッケージを作り、打ち上げ現場では装填済みセット枠を並べ、点火コードを配線するだけとしている業者も多い。
打ち上げのテンポやタイミングの取り方は、電気点火を用いても一般に速火線と延時用導火線の組み合わせで行われる。まず各筒からの延時用導火線に速火線で素早く一斉点火し、時間差は延時用導火線の長さなどでコントロールする。
最新の方法ではコンピュータなどが用いられ、たとえ10分の1秒単位でも打ち上げのコントロールが可能だ。
【仕掛け花火】
仕掛け花火にはいくつか種類がある。普通の花火大会で「仕掛け」というとその花火のスポンサーの名前やマークが花火で描き出され、続いてスターマイン裏打ちで上がる、というのがパターンだ。この文字や絵を花火で描くものを「枠物、枠仕掛け(写真右・枠仕掛けの取り付け)という。金鳥のCMに古くから使われていたものである。
「張物仕掛け(はりものじかけ)」の代表は「ナイアガラの滝」で花火をワイヤーなどに吊り下げた仕掛けだ。
「回転物」は花火の推進力でくるくる風車のように回るようにしたもの。
「水中物」は水中花火や水上スターマイン等を指す。
「トラ、キャンドル、噴水、乱玉」いずれも吹き出しまたは打ち上げ物の一種で比較的小型の物。玩具花火の連発やドラゴンのように火柱を吹き上げる仕掛けである。いずれも単独で使用することは少なく、一列に何本も並べて一斉に点火する場合が殆ど。
→
ナイアガラ仕掛け
→
裏打ち
→
水中花火
【水中花火】
すいちゅうはなび
水中花火とは一般に、水上(海上)を高速で走行する船(モーターボートなど)から、点火した花火玉を次々に後方水中へ投げ込んでいくという方法で行われる。花火玉はいったん水中に没した後比較的浅いところで爆烈し、水上にほぼ半円形に花開くのである。現在では湾内や湖など水辺のある多くの花火大会で、全国的によく取り上げられているプログラムである。打ち上げ方法も様々で上記のほか、花火台船から10数個を斜めに水中に一度に放出する方法、水上に浮かべてセットする方法、水上にワイヤー等を張り、吊り下げる等の方式がある。水に浮かべて打ち出すスターマインを水中花火と呼ぶ場合もある。
投下型の場合導火線が長めなだけで打ち上げ用の花火玉と構造は変わらない。
【水上スターマイン】
湖などの水上で直接点火される花火のプログラムのうち、とくに諏訪湖で行われるものを水上スターマインと称している。花火玉を水中に打ち込んだ棒杭の先端にセットする独特のやり方で、諏訪湖の水深が適当に浅いために可能となっているといわれる。杭は湖上に1 〜2メートル突出しており、この突端の受け皿に花火玉を置き、速火線で結ぶ。杭は等間隔で一直線に湖上に並べられており、主に両端から点火する。水面上または水中に投下するかたちの水中花火とは異なり、水の抵抗が無いため開花は孔雀が羽を拡げた如くの美しい半円=半球状を描くのが特徴である。5〜30号玉までの実績がある。
【ナイアガラ仕掛け ナイアガラ富士】
ナイアガラ仕掛けはどこの花火大会でも、最も人気の高いプログラムで張物仕掛けの花形といえる。これは火薬を詰めた「ランス(写真左下)」という細長いパイプを等間隔で大量にワイヤーに吊し、速火線で一斉に点火する。それぞれのパイプからさらさらと流れ落ちる火の粉が光の滝を創り出す。
張物仕掛けのヴァリエーションとしてよく登場するのが日本ならではの「富士山(写真右)」だ。ナイアガラの滝と同じ花火を使用して、中央2ケ所をクレーンなどで吊り上げたものである。
滝ランスの一本の例。上は張り渡し用の
ワイヤー、下は速火線(導火線)
ナイアガラ仕掛けを張っているところ
【乱玉】
らんたま、らんだま
小型の吹き出しあるいは打ち出しものの花火の一般的な名称で、玩具花火の10〜15連発などといった花火の規模の大きいものと考えると分かりやすい。事実こうした煙火は大型玩具と呼ばれている。実際は直径2〜3センチ長さ30〜50センチくらいの棒状の花火。これを等間隔に10数本からある程度まとった本数を一列に並べて地表に棒杭いに縛るなどしてセットし一斉に点火する。一本の筒からは連続的に星が吹き出し、途中で色も変わるのが普通。星の飛ぶ高さはだいたい2〜30メートル。装填する星の内容によって色々な乱玉となる。乱玉のみを単独でやる場合もスターマインや張り物と組み合わせる場合もある。同時にヒューッと音を出して飛ぶ「笛」なども混ぜて点火される場合もある。
【トラ、虎の尾】
とら、とらのお
おもにプレス星やタドン(写真左下)と呼ばれる打ち上げ玉を一斉に放出する花火。筒先から太い火の柱が昇るのが特徴。虎の尾と呼ばれる場合日本でも江戸の昔からある火薬の玉を打ち出す物で、内側には丸星を内包し、太く尾を引いて上昇し、さらに
小花が開くなどの細工がある。外国物で同種の花火きキャンドル、ローマンキャンドルと呼ばれ大きな錠剤型プレス星を使う。太い火の柱が昇るのみである。
【早打ち、対打ち、段打ち】
はやうち、ついうち、だんうち
打ち上げ方法・演出用語。
「早打ち」は単発の玉を一本の筒から素早く続けて打ち上げること。5号玉程度までのサイズで採用されることが多い。基本的な昔ながらのやり方では、玉の底部に発射薬を予め装着した早打ち専用の玉を用意し、打ち上げ筒の底にバーナーや焚き火で加熱させた焼き金を装填。ここに筒口から早打玉を落として打ち上げる、といった方法で行われる。玉出し、渡し、打ち上げ、と最低3人の担当者が必要となる。現在は打ち上げ数分の筒に装填し電気で端から打ち上げる、といった方法でも行われる。
「対打ち」は一般的に同種同号数の玉を別の筒で同時に打ち上げること。点火も同時、玉が開くのも同時となるのが理想的、だったのは二人の点火担当者が合図と共に息を合わせて手付け(点火)していた場合。電気点火では容易に同時発射となる。「7号対打ち」、「10号対打ち」などとプログラムに記載される。
「段打ち」は重ね打ちともいうが異なる号数の玉を、順次続けて打つこと。この場合基本的にはそれぞれは単発打ち扱いで、スターマインなどの連発とは異なる。たいていは小さい号数の玉から大きい方へ打ち上げる。5号、7号、10号とつづけて打った場合は、「3段打ち」または「5号、7号、10号3段打ち」などという。また「7号、10号5段打ち」として7号3発、10号2発を続けて打つなどもある。
【ナナメ打ち クロス打ち】
ななめうち くろすうち
トラやキャンドル、乱玉などの大型玩具打ち出し物を垂直ではなく斜め方向に角度をつけて打ち出す方式。トラを一ヶ所から斜め左右に打ち出す場合はちょうどV(ブイ)字型に飛ぶことから「Vトラ・V字打ち」などともいわれる。
この場合、通常の打ち上げ筒を斜めに倒して使用することもあるが、現在では最初から斜め45度などに固定された専用の筒も使用されている。または10度ずつ角度を変えて順次電気点火で打ち出すなど、凝った演出も行われる。またこのような専用の筒にスターマインをセットし、海上等に向けて斜めに打ち出す場合も斜め打ち(出しスターマイン)と呼ばれる。
このトラヤキャンドルを使った斜め打ちを離れた左右からそれぞれが交差するように飛ばすと「クロス打ち」となる。V字に打ち出すセットを何カ所かワイドに設置すれば、それぞれが交差するのでこれもクロス打ちとなる。(写真左・クロス打ちを効果的に使ったワイドスターマイン)
【一斉、一斉打ち、同発】
いっせい、いっせいうち、どうはつ
複数の筒に装填された花火玉、または複数のセット済みスターマインや多数のトラなどを同時点火して打ち上げる方法。単独の連発またはスターマインでは、複数(数十本)の筒を順に並べ、業者によって決められた順番と点火タイミングによって一般的に端から順に打ち上げる。これに対し、一斉または同発では文字どおり、そのセット内の花火玉、あるいは間隔をおいてセットされたその回のセットを同時点火でいちどきに打ち上げるものだ。プログラム上では「一斉」と記すほか「花束」「フラワーガーデン」などのタイトルを付けることもある。現在では電気点火により、複数の筒への同時点火は非常に容易になっている。
【裏打ち】
うらうち
仕掛けなどと組み合わせる花火で演出用語といってもよい。「仕掛けの裏打ち」などという。たとえばナイアガラを架け、それが消えかかる頃スターマインを続けて打ち上げる、またはナイアガラが落ちている間にその背後で同時にスターマインを打ち上げる等の場合にこのスターマインのことを「裏打ち」というのである。ようするに背景のようなものであろう。単発や乱玉またはスターマインを使用するが、最近はスターマインが多い。
【特効・特殊効果花火】
とっこう・とくしゅこうかはなび
舞台(コンサート、マジックショー)やイベント(結婚式、祝賀祭典など)の演出や映画やテレビの着弾や爆破シーンなどで使用される火工品類のこと。これを専門に扱う業者を「効果屋、特効屋」などと称する。日本では打ち上げ花火を扱う煙火業者が携わること場合がほとんどだったが、海外ではイベントや映画向けに特殊効果だけを専門に扱う業者も多い。
【玉の座り】
美しい花火に開くためには「玉の座り」が大切で、発射された花火玉が空に昇り詰め、ちょうど上昇力を失い、落下に移る寸前で破裂する事が望ましい。これより早くても遅くても、球形には成り得ないのである。
【割り口】
わりくち
玉が座ったところで点火し、星が一斉に飛び散る瞬間のことを割り口という。すべての星に同時に火が付いて均等に飛び散らなければならない。
【盆】
ぼん
「盆」とは玉が開いたときの形で、どれだけ均整のとれた綺麗な球形に見えるか、またどれだけ盆が大きいか(開発直径が大きいか?)?が良い花火のポイントになる。もちろん星の飛び方が偏ったり、ふらついたりしては歪な花になってしまう。
【抜け星 星が泳ぐ】
いくつかの星に着火せず、そこだけ黒く花弁が抜けてしまう場合があり、抜け星と呼んで減点対象となる。また星がいびつ、あるいは表面の燃焼が均等でない等の理由で軌跡が曲がってしまったり、蛇行したりする場合も「星が泳ぐ」といって減点される。ただし最初から星が不規則な運動をする設計の「遊泳星」の場合はこの限りではない。
【変化】
「変化」とは玉が開いている間の各星の色や形態の変化の具合である。やはり色合いに加えて変化の足並みが揃っているほど良く、均一な星づくりがされている証である。
【消え口】
すべての星が一斉に吹き消すように消えるものが基本的に良いとされる。消え口の良い花火はなんともいえない余韻を残し、また強烈な印象を心に焼き付けるのである。一般に一斉にふっと消えるものはいさぎよくかつ鮮烈な印象を与えるが、最近は親星と芯星で微妙に消える時間差をとったものや、いったん光量が落ちて再び更に明るく輝いて消える、など消え際の印象にも花火職人の細かな星づくりの感性が施されている。
→
花火を鑑賞するポイントはココだ。
【黒玉、割黒】
くろだま わりぐろ
打ち上げた花火が、なんらかの支障により導火から割火薬に着火せず、不発玉としてほぼ発射時の形態のまま落下した物を黒玉という。単に「クロが出た」などともいう。未燃焼の火薬が搭載されたままで危険なため、花火大会終了後は必ず厳重に捜索される。
これに対し割火薬によって破弾したものの(星は飛んだものの)それぞれの星に完全に着火しなかった場合(結果として何も見えない)を割黒という。
【手筒花火・てづつはなび】
手筒花火は打ち上げ花火ではないが、各地の祭りや花火大会で目にすることができる。手持ちの吹き出し型の花火といえる。用途やまた地域によって大きさは3〜4種類になり、小さい物は30センチ程度、大きな物は1メートル位の長さになる。構造はいずれも主に竹を適当な長さに切った筒に火薬を詰め、外側に荒縄
を巻き付けて補強したものだ(写真左下)。これを端から燃焼させると勢い良く火柱が数メートルも吹き出すのである。手筒というのはおもに人がこれを小脇に抱えたまま燃焼させるからだ。全身に火の粉を浴びながらの手筒の演舞または奉納は豪快そのものだ。これよりさらに大きな筒型の吹き出し花火は櫓などに固定して点火され、大筒、大のし、などと呼ばれている。
静岡県新居町の遠州新居の手筒花火、豊橋の三河手筒花火、愛知県豊川市の豊川手筒まつりなどが有名である。
【口火を切る・導火を切る(開く)】
くちびをきる、みちをひらく
打ち上げのため花火玉を筒に装填する際に、着火しやすいように玉から突き出ている親導(おやみち)を刃物などでV字に切り開き火薬断面を露出させる。
写真右・20号玉の口火を切る作業、包丁で切っている。
縄状の部分は、竜頭と呼ばれる吊り環、玉の表面に突き出ている低い円筒部分は、昇り曲(昇り龍)の薬剤。
【電気点火】
でんきてんか
従来の花火の打ち上げは、打ち上げ玉にせよ仕掛けにせよもっぱら人(打揚従事者)が直接火を点ける、つまり点火していたものだった。それは全国的にみれば現在も変わらないものの、趨勢は現場打揚作業員の安全性を重視した電気点火に移行しつつあるといってよい。
電気点火は遠隔操作で花火を打ち上げる方法で、主に点火玉、配線コード、操作盤=点火スイッチ(点火スイッチ盤の例→写真右)、電源(バッテリーなど)から構成され、離れた安全な場所から花火を打ち上げることを第一の目的としている。着火を電気の通電により行うため、コンピュータなどでの着火タイミングのコントロールが容易になり、計算された時間管理にに従う緻密な打ち上げも可能となっている。点火玉の二次着火による発射薬への引火時間差も2〜3ミリセコンド(2〜3/1000秒程度)と殆どタイムラグがないに等しい。
単発打ちでは筒の一本一本、連発ではセットごとに全て配線するため、現在の打ち上げ現場では配線コードが縦横に行き交っている。
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点火玉
【速火線、ロングヒューズ】
そっかせん、ろんぐひゅーず
いずれもスターマインなどの花火筒へのメイン点火に使用するいわゆる導火線。その中でも速火線は約1秒間に10〜20メートル以上の早さで燃え進むもので着火の燃焼速度がきわめて早いものをいう。燃焼速度は同じでも芯部の火薬を1枚の被覆紙で覆った製品を速火線、2重の被覆を施したものをロングヒューズと呼んでそれぞれは別物である。ロングヒューズは2重被覆の分、他からの火の粉による誤着火(もらい火)の恐れが少なくなっている。用途としては単発玉の打ち上げの際、筒底から筒口までの着火にはロングヒューズが用いられることが多い。接続は電気導火線、ロングヒューズ、発射薬という順になる。
【延時用導火線、延時】
えんじようどうかせん、えんじ
スターマインなどで束ねた各花火筒への点火に使用する導火線。1秒間に約1センチメートル燃焼する。つまり3センチメートルなら3秒、10センチメートルなら10秒燃焼に時間がかかる訳で、それを利用してスターマインにおける、セットされた各花火玉への発射の順番や時間差をコントロールするのである。接続は電気導火線、速火線、延時導火線、ロングヒューズ、発射薬という順になる。三尺などの大玉では、着火後の退避の時間稼ぎに延時導火線、ロングヒューズ、発射薬というように用いられる。英語ではDelay。
【
点火玉、電気導火線
】 てんかだま、でんきどうかせん
電気による点火の際に用いる専用パーツのひとつ。工作などに使う小型の豆電球(ムギ球)や発光ダイオードのような大きさと形態。先端の火薬部分の直径2〜3ミリ程度。火薬部分の外側には補強皮膜が施されていて火薬がむき出しという訳ではない。2本の電極に通電すると、電球のような発熱が起こり周りを覆っている少量の火薬が発火する。通常、この点火玉を発射火薬に直接挿入するか、あるいは発射火薬から導いた速火線の端に挿入して使う。通電されると瞬時に二次引火して花火が発射されたりする。一度きりの消耗品(写真参照・点火玉のほぼ原寸大、発火するのは最先端部)。現在はこの点火玉の外側に補強用のバイブ状の保護キャップ(長さ2〜3センチメートル程度)を取り付けた電気導火線が主流になっている。内包された点火玉がむき出しになっていないので、より衝撃や摩擦に対して取り扱いの安全性が高くなっている。また点火玉の着火が四方に拡散するのと違ってパイプの開口部(配線コードと反対側)に向かって集中して火花が飛ぶのでより点火の確実性が高くなっている。